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彷徨う思い

陽が落ち、夜の帳が降りた時間にロフトフスキーは隠れるようにユスーポフ家を訪れる。
裏口から入り、定期報告を待つレオニード・ユスーポフ侯爵の執務室に入った。
スパイとして潜入したころは手紙で行う報告がほとんどだったのだが、最近のレオニードは直に報告するように命じるようになっていた。

その理由は何故か、ロフトフスキーにはその理由がわかっていた。

「候・・・参りました」

側近くに仕えてきた時と同じように敬礼をする。
分厚いカーテンを少しだけ開き、夜の闇を見つめるレオニードは背を向けている。

「ご苦労」

ボリシェビキ内部の報告をし、そこで言葉を切った。

「それだけか・・・?」
「は・・・」

姿勢を正し、一礼をする。
ガラス窓に移った上官が何を欲しているのか、わからないロフトフスキーではない。彼にわからないように息を吐くと、もう一度居住まいを正した。

「健やかに過ごしておいでです。夏には、モスクワまでアレクセイ・ミハイロフの仕事に同行され、そこで結婚式を挙げたようでした」
「!」

レオニードの肩がピクリと揺れた。それ以上の報告がないと判断したのか、目を閉じた様子がガラス窓に移っていた。

「ご苦労だった。戻ってよいぞ」
「はっ」

背を向けたままのレオニードに最敬礼をして、部屋を辞した。

更新日:2017-04-12 18:12:37

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