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挿絵 300*219

「なんだとぉ?!」
「落ち着け、アレクセイ」

小さな二人の部屋にアレクセイの声が響いた。
珍しく休みだと言って、昼前に起きてきたところにズボフスキーがやってきたのだ。
アレクセイの大声にユリウスはお茶の用意の手を止めた。

「三日ほどだ、三日間ユリウスを貸してくれないか」
「なんでこいつなんだ?」
「おれの知る限りじゃ、ドイツ語、フランス語、ロシア語のいずれも流暢に話せるのはユリウスだけだ」
「他にいないのか」

アレクセイはぶすっとした顔で盟友をにらみつけている。
お茶の用意ができたユリウスが、そっと二人の前にカップを置いた。

「残念ながら、いないんだな、これが」

アレクセイの表情と正反対に、ズボフスキーはにやりとした。

「ぼくは何をしたらいいの?」
「ユリウス!」

アレクセイの制止も聞かず、夫の盟友に顔を向けた。

「通訳だよ。来週オペラハウスに来るフランスの交響楽団のメンバーが、市民向けに楽器のデモンストレーションをするんだが、ドイツ語の通訳が肺炎で寝込んでしまってね。治るのに10日はかかるそうだ」

アレクセイはぶすっとしながらお茶をすすっている。

「オペラハウスは貴族やブルジュアが多く出入りするから、おれたちの同志も何人か稼ぎを兼ねて潜り込んでいる。
そこで通訳が寝込んでしまって、劇場関係者がかなり困っていると聞いてきたんだ」
「その話は支部長が関わる必要なしと言ったんじゃないのか」
「それがそういうわけでもないそうだ」
「どういうことだ」

アレクセイの機嫌がますます悪くなりそうな気配だ。

更新日:2016-10-29 22:03:55

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