官能小説

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「何をするんですかクライドさん!」

「嫌!離してっ!」

フレイアはクライドの腕を振りほどき、レイスのほうへ逃げ、彼の後ろに隠れた。

「フレイア!そこを退けレイス!」

「嫌です!まだ解らないのですかクライドさん!フレイアは旦那に見棄てられたんですよ!このままもとの場所に戻っても不幸になるだけだ!」

必死でフレイアを庇い、先輩であり師匠でもあるクライドに初めて反抗するレイス。
だがクライドは益々表情を怒りに歪め、二人に近付いたかと思うといきなりレイスの首に手をかけた。

「ぐ…っ!?」

まさか自分が襲われると思わず、不意討ちをくらったレイスはクライドに首を押さえつけられ、そのまま床に叩き付けられ這いつくばってしまった。

「クライド!レイスは関係無いでしょ手を離して!」

「黙れ!お前も此れを見るんだ!」

そう言ってクライドは空いた手でレイスの後ろ首筋を指した。

「!?」

そこに有ったのは、ひとつの痣…いや、それは羽根を広げた勇敢な鷲に巻き付きその喉元に噛み付く双頭の蛇の姿をした焼き印。
この世界に於いて神の遣いと言われ聖なる扱いを受ける鷲に牙を剥く蛇のそれは、神に刃向かう忌むべき悪魔の姿。

「なによ、これ…?」

見た目のおぞましさから、フレイアは恐怖に声を震わせ尋ねてきた。
確かに以前からそこに何かしらの痣があったのは解っていたが、ここまではっきりと目にしたのは今回が初めてであった。

「これは、ギランの烙印だ」

「!」

クライドの言葉にフレイアは驚愕の表情を浮かべる。

――ギランの烙印。

それは最も罪深い罪人に刻まれる烙印。
その烙印を押された者は死ぬまでその罪を赦される事が無いと言われ、大陸全土全ての国に於いて忌み嫌われ蔑まれる。
フレイアも一般知識として話には聞いていたものの、烙印自体を見るのは初めてだった。

「な、ぜ…なぜレイスが‘ギランの烙印’を?」

衝撃の事実に、フレイアはやっとのことでそれだけ口を開いた。

「まあ、こいつは偽物の‘ギランの烙印’だがな」

「え?」

「だがこいつは娼婦街(ここ)では本物の‘ギランの烙印’になる。そしてこの烙印を押された者は死ぬまで娼婦街(ここ)から出る事は赦されない。もしここから出ていこうとするならば、地獄の底までマダム=ローゼス直属の精鋭部隊である守人(ガーディアン)に追われ、捕まれば制裁が下される」

「どういう事?何故レイスがそんな目に遭うの?ねえ?」

「……」

だがレイスはフレイアの問いには答えず、クライドに押さえつけられたまま黙ってじっとしているだけである。

「娼婦街(ここ)に来る人間は大きく分けてふたつ居る。
ひとつは借金の形に売られたり金欲しさに娼婦となる者、もしくはお前のように世間から逃げ出したくて己の意思でここに来た者。そいつらは雇い主の許可が下りれば娼婦街(ここ)を出られる」

ぽつりとクライドが呟き、ちらりとフレイアを見た。だがそれは何処と無く寂しげなものだった。

「そしてもうひとつは、己が遺した血筋を隠すが為に、その存在を世から遠ざける為に、金を使ってここに連れて来られた者。
そいつらは在らざる者、世に出る事を赦されぬ者。
それ故‘ギランの烙印’を押され娼婦街(ここ)に囚われ、血を遺す事を赦されず死ぬまで外に出るのを赦されぬ」

そしてちらりとレイスのほうを見た。

更新日:2017-05-23 10:53:21

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