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よんじゅうろく
「……」
隠し通路の先、秘密の部屋の入り口付近ではフローラとマリウス、そしてマーサやリーン達がまるで石像のように固まったままお互いを見合っていた。
フローラは丁度目の前にいるマリウスの姿…普段とは違い眼鏡を外し綺麗な顔立ちを露にし、だがその澄んだ蒼い瞳は驚きと怒りに満ちている姿から目が離せない。
と、マリウスはいきなりにこっと笑みを浮かべるとけらけら笑いだしいつもの調子で話し始めた。
「あーあ、フローラちゃんにこの部屋がばれちゃったー」
「マリウス様…」
マーサのほうは主人の命令を果たさなかった為か半ば恐怖と憔悴の混じった表情をしている。
「マリウス…」
そんな彼の姿にフローラは一瞬、いつもの呑気で純粋な彼が戻ってきたのだと錯覚してしまった。
だがその表情とは裏腹に、彼女を見る彼の露になった蒼い瞳は怒りに満ちていて、それに気付いた時、彼のふざけた態度との違いに恐怖と虚しさ、いや却って滑稽すら感じた。
「…もう、嘘、つかないでマリウス」
「!?」
「話、全部聞いた。始末して欲しいとか薬飲んでまでセックスの相手をしてるとか…それって、私…のこと…よね…」
「フローラ…」
すっかり憔悴した彼女の様子に、言葉に、リーンやタルシーは深い溜め息をついて軽く首を横に振った。
「最早彼女には誤魔化しは効かないようだな…」
「そうですね」
リーンはフローラの傍まで近付き、彼女の細い肩をぽんと叩いた。
「儂が全て話をしよう。さあ中に入りなさい」
「……」
彼に導かれるがままフローラはよろよろと部屋へと入っていき、遅れてタルシーやランクル、そして最後にマリウスが部屋へと入った。
「お前は屋敷の留守を頼む。決してへまはするなよ…!」
「…御意」
冷ややかな、怒りの籠った口調のマリウスの命令に、マーサはそれだけ答えて一礼すると、半分ほっとした様子で隠し通路を戻っていったのだった。
*
「これが全ての真実だ」
部屋の中でフローラはリーンから事の全てを聞かされた。
「……」
…何?ロックフェル家がこの国の官僚に巣食う悪事の中心的存在?
その事実を掴んだクーベル家はロックフェル家に嵌められ罪を着せられ滅亡させられ、ブランディア家がその復讐をしている?
ロックフェル家に近付く為にマリウスは偽装結婚しなくてはいけなくなり、その相手に私が選ばれた?
しかも彼の本当の婚約者は別にいて、それはミリアさんであって、私は所詮捨て駒的な存在…。
だがそれは彼女にとって現実として受け入れるには、余りにも突拍子過ぎて、フローラは暫し無言のまま、ただただ呆然自失の状態であった。
…そんな、どこか夢物語のような話なんて、私の近くにある訳ないじゃない。
そうよ、これは嘘、全部嘘っぱち、全部夢物語よ!
「今更だが、事が終われば君にはきちんと説明するつもりではいたんだ。だがこうなった以上、最早隠せはしないと思って全てを話した。すまなかったね」
謝罪の言葉こそ述べるリーンだが、その声色はそんな気持ちなど微塵も感じさせない、表面上の実に淡々としたものだった。
…何を言っているの、この人は?
だって、だって今、私とマリウスはれっきとした夫婦よ!そりゃ始めのうちは強引で馬鹿な彼の事を嫌いだったけど、本当は真っ直ぐで純粋で不器用な彼だったから、真っ直ぐな想いで私を好きになってくれたから、私も、彼を好きになったのよ。
隠し通路の先、秘密の部屋の入り口付近ではフローラとマリウス、そしてマーサやリーン達がまるで石像のように固まったままお互いを見合っていた。
フローラは丁度目の前にいるマリウスの姿…普段とは違い眼鏡を外し綺麗な顔立ちを露にし、だがその澄んだ蒼い瞳は驚きと怒りに満ちている姿から目が離せない。
と、マリウスはいきなりにこっと笑みを浮かべるとけらけら笑いだしいつもの調子で話し始めた。
「あーあ、フローラちゃんにこの部屋がばれちゃったー」
「マリウス様…」
マーサのほうは主人の命令を果たさなかった為か半ば恐怖と憔悴の混じった表情をしている。
「マリウス…」
そんな彼の姿にフローラは一瞬、いつもの呑気で純粋な彼が戻ってきたのだと錯覚してしまった。
だがその表情とは裏腹に、彼女を見る彼の露になった蒼い瞳は怒りに満ちていて、それに気付いた時、彼のふざけた態度との違いに恐怖と虚しさ、いや却って滑稽すら感じた。
「…もう、嘘、つかないでマリウス」
「!?」
「話、全部聞いた。始末して欲しいとか薬飲んでまでセックスの相手をしてるとか…それって、私…のこと…よね…」
「フローラ…」
すっかり憔悴した彼女の様子に、言葉に、リーンやタルシーは深い溜め息をついて軽く首を横に振った。
「最早彼女には誤魔化しは効かないようだな…」
「そうですね」
リーンはフローラの傍まで近付き、彼女の細い肩をぽんと叩いた。
「儂が全て話をしよう。さあ中に入りなさい」
「……」
彼に導かれるがままフローラはよろよろと部屋へと入っていき、遅れてタルシーやランクル、そして最後にマリウスが部屋へと入った。
「お前は屋敷の留守を頼む。決してへまはするなよ…!」
「…御意」
冷ややかな、怒りの籠った口調のマリウスの命令に、マーサはそれだけ答えて一礼すると、半分ほっとした様子で隠し通路を戻っていったのだった。
*
「これが全ての真実だ」
部屋の中でフローラはリーンから事の全てを聞かされた。
「……」
…何?ロックフェル家がこの国の官僚に巣食う悪事の中心的存在?
その事実を掴んだクーベル家はロックフェル家に嵌められ罪を着せられ滅亡させられ、ブランディア家がその復讐をしている?
ロックフェル家に近付く為にマリウスは偽装結婚しなくてはいけなくなり、その相手に私が選ばれた?
しかも彼の本当の婚約者は別にいて、それはミリアさんであって、私は所詮捨て駒的な存在…。
だがそれは彼女にとって現実として受け入れるには、余りにも突拍子過ぎて、フローラは暫し無言のまま、ただただ呆然自失の状態であった。
…そんな、どこか夢物語のような話なんて、私の近くにある訳ないじゃない。
そうよ、これは嘘、全部嘘っぱち、全部夢物語よ!
「今更だが、事が終われば君にはきちんと説明するつもりではいたんだ。だがこうなった以上、最早隠せはしないと思って全てを話した。すまなかったね」
謝罪の言葉こそ述べるリーンだが、その声色はそんな気持ちなど微塵も感じさせない、表面上の実に淡々としたものだった。
…何を言っているの、この人は?
だって、だって今、私とマリウスはれっきとした夫婦よ!そりゃ始めのうちは強引で馬鹿な彼の事を嫌いだったけど、本当は真っ直ぐで純粋で不器用な彼だったから、真っ直ぐな想いで私を好きになってくれたから、私も、彼を好きになったのよ。
更新日:2017-03-14 07:12:17