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よんじゅういち★
「えー、この度ここの大臣を務めることになりましたー…」
「……」
ふわあ、と大きな欠伸をしながらマリウスは、いやマリウス達官僚の面々は職場である庁舎の中、目の前に居る中年の小肥りの男の話を聞いていた…。
*
…それは10日程前の事だった。
自衛団が連続少女殺人事件、通称『ヴォールク事件』の重要参考人としてキール=ロックフェル氏に任意同行を求めたところ、彼はそれを拒否するように見張りを倒し、細君であるアナ夫人と共に他国への逃亡を図った。
だが翌日、ルルゥーム国との国境付近の森の中で彼は夫人と共に無残な遺体となって発見された。
それは血の海の中に二人共が首を刎ねられた状態で倒れており、発見した団員の一部がその惨状に気分を害し失神した者も居た程であった。
現場は彼らが逃走に使ったとおぼしき馬車は残されてはいたものの、馬や金銭が悉く奪われており、又この馬車の馭者であった人物の証言から、自衛団はこの辺りを彷徨いている山賊の一味が犯人と断定し、行方を追っている。
そして大臣であったキールの急死に伴い、急遽新たなる大臣を選出したのだが、これがまたキールに勝るとも劣らない程のボンクラな奴で、父親の七光りのお陰で今の役職に就けたと言っても過言では無かった。
「あーあ、またこんな糞がキールの後釜になるなんてな、やっぱ親と金の力はすげえな」
「まあ奴はキールと違ってぼんやりしてるみたいだしな。仕事中はあのヒステリックな騒ぎにはならないだろう」
「そうだな、それだけましかな」
周りの同僚達がひそひそとそんな話をする中、マリウスは独り考えを巡らせていた。
…全く、あの事件を足掛かりにキールを、延いてはロックフェル一族の悪事を暴露する計画だったのに、奴が殺されてしまい全てがおじゃんだ。最早キールが居ない以上ここに居ても意味無い。しかし今の阿呆の僕ではライル、況してレオニールの傍で働く事など出来ぬしな、さて今後はどうしたものか…。
「…では話しはこれくらいにして、今日はこれで仕事納めにする。また明日、解散」
男の言葉に官僚達はうわおと歓声をあげて早々に庁舎から出ていってしまった。
「……」
余りの無責任な大臣の発言にマリウスは暫し呆然としていたが、やがて荷物をまとめて遅れて庁舎を後にした。
…取り敢えず今日のところは屋敷に戻って、後日父上と今後について話し合いをするか。
そう考えながら屋敷へと馬車を向かわせるのであった。
*
「只今ー」
「お帰りなさいませ」
「お帰りなさい」
屋敷に戻ったマリウスを出迎えたのはマーサをはじめとした侍女達一同と、フローラであった。
「あれフローラちゃん、今日は仕事は?」
「今日はお休み。久しぶりに早く帰ってきたのね、嬉しい」
フローラは至極上機嫌で迎え傍まで駆け寄った。
「そっかぁ、ここのところずっと忙しかったからなぁ」
そんな彼女をそっと軽く抱きしめぽんぽんと軽く肩を叩きながらそう呟く。
「今日、大臣さんの任命式があったのでしょう?今度の上司に当たる御方はどんな人?」
「んー、前のキール大臣よりは優しそうだったよ。今日も式が終わったら皆を帰してくれたしね」
「キールさん…あの人がまさかあの事件に関係しているなんて思いもしなかったわ」
例の事件の話は当然国中に伝わり、恐怖の余りにか彼の腕の中で微かに身体を震わせる。
「うん、そうだね」
「……」
ふわあ、と大きな欠伸をしながらマリウスは、いやマリウス達官僚の面々は職場である庁舎の中、目の前に居る中年の小肥りの男の話を聞いていた…。
*
…それは10日程前の事だった。
自衛団が連続少女殺人事件、通称『ヴォールク事件』の重要参考人としてキール=ロックフェル氏に任意同行を求めたところ、彼はそれを拒否するように見張りを倒し、細君であるアナ夫人と共に他国への逃亡を図った。
だが翌日、ルルゥーム国との国境付近の森の中で彼は夫人と共に無残な遺体となって発見された。
それは血の海の中に二人共が首を刎ねられた状態で倒れており、発見した団員の一部がその惨状に気分を害し失神した者も居た程であった。
現場は彼らが逃走に使ったとおぼしき馬車は残されてはいたものの、馬や金銭が悉く奪われており、又この馬車の馭者であった人物の証言から、自衛団はこの辺りを彷徨いている山賊の一味が犯人と断定し、行方を追っている。
そして大臣であったキールの急死に伴い、急遽新たなる大臣を選出したのだが、これがまたキールに勝るとも劣らない程のボンクラな奴で、父親の七光りのお陰で今の役職に就けたと言っても過言では無かった。
「あーあ、またこんな糞がキールの後釜になるなんてな、やっぱ親と金の力はすげえな」
「まあ奴はキールと違ってぼんやりしてるみたいだしな。仕事中はあのヒステリックな騒ぎにはならないだろう」
「そうだな、それだけましかな」
周りの同僚達がひそひそとそんな話をする中、マリウスは独り考えを巡らせていた。
…全く、あの事件を足掛かりにキールを、延いてはロックフェル一族の悪事を暴露する計画だったのに、奴が殺されてしまい全てがおじゃんだ。最早キールが居ない以上ここに居ても意味無い。しかし今の阿呆の僕ではライル、況してレオニールの傍で働く事など出来ぬしな、さて今後はどうしたものか…。
「…では話しはこれくらいにして、今日はこれで仕事納めにする。また明日、解散」
男の言葉に官僚達はうわおと歓声をあげて早々に庁舎から出ていってしまった。
「……」
余りの無責任な大臣の発言にマリウスは暫し呆然としていたが、やがて荷物をまとめて遅れて庁舎を後にした。
…取り敢えず今日のところは屋敷に戻って、後日父上と今後について話し合いをするか。
そう考えながら屋敷へと馬車を向かわせるのであった。
*
「只今ー」
「お帰りなさいませ」
「お帰りなさい」
屋敷に戻ったマリウスを出迎えたのはマーサをはじめとした侍女達一同と、フローラであった。
「あれフローラちゃん、今日は仕事は?」
「今日はお休み。久しぶりに早く帰ってきたのね、嬉しい」
フローラは至極上機嫌で迎え傍まで駆け寄った。
「そっかぁ、ここのところずっと忙しかったからなぁ」
そんな彼女をそっと軽く抱きしめぽんぽんと軽く肩を叩きながらそう呟く。
「今日、大臣さんの任命式があったのでしょう?今度の上司に当たる御方はどんな人?」
「んー、前のキール大臣よりは優しそうだったよ。今日も式が終わったら皆を帰してくれたしね」
「キールさん…あの人がまさかあの事件に関係しているなんて思いもしなかったわ」
例の事件の話は当然国中に伝わり、恐怖の余りにか彼の腕の中で微かに身体を震わせる。
「うん、そうだね」
更新日:2016-10-17 09:31:05