• 6 / 12 ページ

第二章 運命の女神

それから3ヶ月後。冒険者になってから1年と1ヶ月。俺はCクラスに到達していた。更にギフトも判明……したのだが、どういうギフトなのかは資料室で調べ直しても何一つ分からなかった。
威圧の方は常時発動する事はなくなったものの、憤怒や恐怖によって自動発動される。早速Cクラス狙いのタカリ共にお見舞いし、ほんの僅かではあるが憂さを晴らした。
俺「市民権の為に徒党メンバーを生贄にした……か。」
追い散らしたタカリの捨て台詞を思い出して自虐する。俺にその気が無かったとしても、結果的にはその通りだった。市民権を得て当初の目的は全て果たしたものの、その過程で新たにやらなければならない事が生じた。
俺「俺は……。」
純一は死んだと決まった訳じゃない。転移先で命を繋いだ可能性もゼロではない。彼の捜索という至上命題が、冒険者としての俺を突き動かしていた。

Cランク用のアパートに居を移した俺がポストを確認すると、そこには1通の手紙が入っていた。部屋に入り、内容を確認する。……数日前、シスターメルルに送った手紙の返事だった。
俺「明日は休みにするか。」

翌日、俺は13ヶ月振りに孤児院を訪れた。シスターに市民権獲得の祝福を受けた俺は、早速本題を切り出した。
メルル「ではそこに座ってください。」
指定の場所に座り、シスターの透視を受ける。
メルル「……。そういう事だったのですね。」
俺は未だかつてない期待を抱いてシスターの言葉を待つ。
メルル「あなたのギフト『無限の輪』の具体的な効果は分かりませんでした。ですが、あなたの威圧が派生スキルだという事は分かりました。」
『派生スキル』とは、ある能力を持っている事が習得条件となっているスキルの事である。
俺「派生元は無限の輪……という事ですか?」
メルル「はい。この話の続きをする前に……実はあなたに謝らなければならない事があるのです。」
俺には5歳より前の記憶が無い。それ自体は特に珍しくもなかったのだが……
メルル「あなたがこの孤児院に引き取られたのは生まれて間もなくではなく、その5歳の時だったのです。」
まさに寝耳に水だった。
メルル「その時のあなたは廃人同然の状態でした。透視をしても何も見えず、知り合いの心理治療を専門としている医師に診てもらいました。」
人はその精神が堪えられない事態に陥ると、防衛本能として記憶をロックする事があるのだという。だが当時の俺の場合、そのショックが強過ぎて他の記憶もロックしてしまったらしい。
メルル「ですので不要なロックを解除する術を施してもらったのです。嘘をついたのもそのためです。そして恐らく、そのショックによって無限の輪が覚醒したのでしょう。原理は分かりませんが、あなたが抱く他人への恐怖が、威圧という形で放出されるようになったのです。」
言われてみれば……狩り慣れたモンスター相手だと威圧の効果が鈍っていたのはそういう訳か。
メルル「無限の輪については今後のあなた次第、という事になるのでしょうが……それよりも重要な事があるのでしたね。」
俺「はい。ですが手掛かりも無い状態でどうしたらいいのか……。」
あるいは魔導書の原理を完璧に解き明かせば……とも思ったが、そんな保証はどこにもない。
メルル「分かりました。では、少しだけ昔話に付き合ってください。」

<メルル>
私が所属していた徒党のリーダーは『ダイ』という方で、センダイ史上初のSランク冒険者でした。『竜の紋章』という名のギフトをお持ちで、その強さは1人でも生物災害(一体で都市を壊滅させる程の力を有する高ランクモンスターの襲撃)を解決出来る程でした。ですが、その強さが油断を生んでしまったのです……。
その日もギルドからSランクモンスターの討伐依頼がありました。いつものように1人で行こうとするダイさんを副リーダーのポップさんが制しました。口論の末、お2人は私の予知に判断を委ねられました。特に何も感じなかった私は、その結果をそのままお2人に告げました。
……今でも責任を感じずにはいられません。あの時、たとえ嘘でもダイさんをお止めするべきだったと。

<俺>
シスターの話は正に自分と純一の事を聞いているようだった。
俺「そのダイって人は……今も行方不明のままなんですか?」
無言で頷くシスター。彼女の無念が骨身に沁みる。
メルル「ですがあなたの方は望みがあります!先程の透視で朧げながらその予兆が見えたのです。」
俺「予兆というのは?」
メルル「はっきりとは分かりません。私に見えたのは微かな希望の光です。」
俺「更なる高みを目指した先に希望がある……という事ですか?」
メルル「その通りです。」
シスターを信じていない訳ではなかったが、終わりが見えないゴールへの不安は拭い切れなかった。
メルル「もう一度言います。どんな状態になっても生きている限り、希望だけは失わないでください。」

更新日:2016-08-27 14:06:02

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook