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約束
「おっきくなったらけーおーとけっこんするー!」
笑顔で僕の教育係に宣言するのは幼馴染の小田急だ。
「へえ~結婚かあ。じゃあその前に京王にすきですって告白しないとね」
困ったような、少し怒ったような笑顔で髙島屋は小田急の頭をぐりぐりと撫でる。
「するよ!」
そんな高島屋の困惑など意にも介さず、小田急は真顔で答える。
「それと、京王に好きになってもらえるぐらいいい男にならないと」
「なるよ!」
間髪入れずに力強く答える小田急。そんな彼を見ると、男同士で結婚なんて無理だろ、とか何の根拠があってそんな自信満々に答えられるの?とか、山のような否定の言葉が不思議と吹き飛んでしまう。
「ぜったいなるよ!」
満面の笑みで宣言する小田急を見ていると、自分が小田急を好きになる、なんだかそんな気がした。
……それなのに。
「京王数学の課題見して」
もう授業開始のチャイムもなったというのに、小田急はまだ課題が終わらずにいた。わからないならわからないなりにもう少し早く聞けばいいのに、といつも思う。
「だめ」
「んだよケチ~!ともだちじゃん!幼馴染じゃん!」
ケチって何だ、ケチって!そうやって自分で解かずに丸写しするからいつまでたってもできるようにならないんだろ!小田急の為を思って言ってるのにケチ呼ばわりされるとは心外だった。
「教えるのはいいけど写すのはだめ」
「俺の理解力なめてる?わかんないトコがわかんないの!」
恥ずかしげもなく馬鹿丸出しな小田急。これが僕を好きにさせるいい男の姿か?こんなのに僕が惚れると思われているのか?
「なんか…腹立ってきた」
「えっ?なんで?俺なんかした?」
京王の呟きに、ノートとにらめっこしていた小田急は焦って顔を上げる。
僕が好きになるくらいいい男になるって言ったくせに。
「約束が違う」
「約束?なんの?」
幼いころの約束なんて、覚えてるわけないか。別に今、小田急に告白されても困るからいいんだけど。だけど、あんなに得意げに言ったくせに、忘れられてるのも、それはそれで面白くない。
「いーよもう」
「けいお~~~!!」
泣きつく小田急を無視してると、担任の大丸先生がやってきてHRが始まった。
「はい席つけ~!今日は転入生を紹介します!」
そういった途端、教室中がざわつきだす。
隣の小田急も鼻の下を伸ばして「どんな子かなあ?かわいくておっぱいおっきい子がいいな~」と語尾にハートマークをつけて浮かれている。
馬鹿にもほどがある。可愛いはともかく、おっぱいのおっきい子なんか来るわけないのに。なぜならうちの学校は―
「落ち着け小田急。男子校だぞ」
その声が届くか届かないかのタイミングで、教室の扉が開かれる。そこにいたのはかわいくておっぱいのおっきい子ではなく、金髪で短ランでヤンキーっぽい身長のおっきな子だった。
一瞬教室中をドン引きさせた転入生は、その日のうちにヤンキーではなくオネエと分かり、あっさりクラスに馴染んだのだった。
なんか、疲れたな。
帰宅後、シャワーを浴びながらいつものように今日一日を振り返る。
転入生のこと以外、取り立てて変わったことがない一日だったのに、この疲労感は一体なんだろう?いつも通り授業を受け、いつも通り小田急の相手をしていただけなのに…。
『かわいくておっぱいおっきい子がいいな~』
そういえば、この台詞だけはいつも通りじゃないな。
色恋の話をしたことがない小田急が口にした、かわいくておっぱいのおっきい子、つまり彼の好みは、可愛くて胸の大きな女の子、というわけだ。
自分には大きな胸どころか女の子ですらない。
シャワーを弾く平らな胸を見ていると、じわりと目尻に熱いものが込み上げてくる。
もう、小田急は昔の事なんか忘れたんだ。
大きくなったら僕と結婚するって言ったのに。
大きくなったら僕に好きって告白するって言ったのに。
大きくなったら僕が好きになるくらいいい男になるって言ったのに。
全部、忘れたんだ。
仕方ないじゃないか、小田急は馬鹿だから。記憶力が悪いんだから覚えてなんてられないよ。それに、ちょうどいいじゃないか。好きって言われたって、結婚なんかできないし。全然いい男にもなってないし。
だけど―
「…おっぱいおっきい子か…」
僕は胸の大きな女の子じゃないけど、君に好きって言われたいのに…。
笑顔で僕の教育係に宣言するのは幼馴染の小田急だ。
「へえ~結婚かあ。じゃあその前に京王にすきですって告白しないとね」
困ったような、少し怒ったような笑顔で髙島屋は小田急の頭をぐりぐりと撫でる。
「するよ!」
そんな高島屋の困惑など意にも介さず、小田急は真顔で答える。
「それと、京王に好きになってもらえるぐらいいい男にならないと」
「なるよ!」
間髪入れずに力強く答える小田急。そんな彼を見ると、男同士で結婚なんて無理だろ、とか何の根拠があってそんな自信満々に答えられるの?とか、山のような否定の言葉が不思議と吹き飛んでしまう。
「ぜったいなるよ!」
満面の笑みで宣言する小田急を見ていると、自分が小田急を好きになる、なんだかそんな気がした。
……それなのに。
「京王数学の課題見して」
もう授業開始のチャイムもなったというのに、小田急はまだ課題が終わらずにいた。わからないならわからないなりにもう少し早く聞けばいいのに、といつも思う。
「だめ」
「んだよケチ~!ともだちじゃん!幼馴染じゃん!」
ケチって何だ、ケチって!そうやって自分で解かずに丸写しするからいつまでたってもできるようにならないんだろ!小田急の為を思って言ってるのにケチ呼ばわりされるとは心外だった。
「教えるのはいいけど写すのはだめ」
「俺の理解力なめてる?わかんないトコがわかんないの!」
恥ずかしげもなく馬鹿丸出しな小田急。これが僕を好きにさせるいい男の姿か?こんなのに僕が惚れると思われているのか?
「なんか…腹立ってきた」
「えっ?なんで?俺なんかした?」
京王の呟きに、ノートとにらめっこしていた小田急は焦って顔を上げる。
僕が好きになるくらいいい男になるって言ったくせに。
「約束が違う」
「約束?なんの?」
幼いころの約束なんて、覚えてるわけないか。別に今、小田急に告白されても困るからいいんだけど。だけど、あんなに得意げに言ったくせに、忘れられてるのも、それはそれで面白くない。
「いーよもう」
「けいお~~~!!」
泣きつく小田急を無視してると、担任の大丸先生がやってきてHRが始まった。
「はい席つけ~!今日は転入生を紹介します!」
そういった途端、教室中がざわつきだす。
隣の小田急も鼻の下を伸ばして「どんな子かなあ?かわいくておっぱいおっきい子がいいな~」と語尾にハートマークをつけて浮かれている。
馬鹿にもほどがある。可愛いはともかく、おっぱいのおっきい子なんか来るわけないのに。なぜならうちの学校は―
「落ち着け小田急。男子校だぞ」
その声が届くか届かないかのタイミングで、教室の扉が開かれる。そこにいたのはかわいくておっぱいのおっきい子ではなく、金髪で短ランでヤンキーっぽい身長のおっきな子だった。
一瞬教室中をドン引きさせた転入生は、その日のうちにヤンキーではなくオネエと分かり、あっさりクラスに馴染んだのだった。
なんか、疲れたな。
帰宅後、シャワーを浴びながらいつものように今日一日を振り返る。
転入生のこと以外、取り立てて変わったことがない一日だったのに、この疲労感は一体なんだろう?いつも通り授業を受け、いつも通り小田急の相手をしていただけなのに…。
『かわいくておっぱいおっきい子がいいな~』
そういえば、この台詞だけはいつも通りじゃないな。
色恋の話をしたことがない小田急が口にした、かわいくておっぱいのおっきい子、つまり彼の好みは、可愛くて胸の大きな女の子、というわけだ。
自分には大きな胸どころか女の子ですらない。
シャワーを弾く平らな胸を見ていると、じわりと目尻に熱いものが込み上げてくる。
もう、小田急は昔の事なんか忘れたんだ。
大きくなったら僕と結婚するって言ったのに。
大きくなったら僕に好きって告白するって言ったのに。
大きくなったら僕が好きになるくらいいい男になるって言ったのに。
全部、忘れたんだ。
仕方ないじゃないか、小田急は馬鹿だから。記憶力が悪いんだから覚えてなんてられないよ。それに、ちょうどいいじゃないか。好きって言われたって、結婚なんかできないし。全然いい男にもなってないし。
だけど―
「…おっぱいおっきい子か…」
僕は胸の大きな女の子じゃないけど、君に好きって言われたいのに…。
更新日:2016-08-12 21:51:00