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ユリウスの回想~家族写真
「はい、こちらを見て、そのまましばらく動かないでいただけますか!奥様、坊っちゃんのお顔をもう少し前へ、はい奥様もどうぞにこやかな表情で・・・侯爵様も・・・あ、いえ結構です。では撮りますよ!」
ガシャッ!
~~~~~
カタ・・・
あなたとレオーンとボク・・・三人にとって最初で、そして最後になってしまった家族写真。
これを撮ったのがどんどん遠い日に思えてくるのは、仕方のないこと?
でもそれは・・・とても淋しいこと。
あれはレオーンが生まれる三か月ほど前のこと、あなたはボクと暮らし始めてから初めて長く留守をすることになったよね。
「すまぬ、ユリウス。ひと月ほどパリへ行って来なければならぬことになった。産み月までには充分間に合うはずだが・・・一人で大丈夫か?」
ある日の晩、ベッドの中でだいぶ目立ち始めた膨らみにそっと大きな手を置き、あなたは心配そうにボクの瞳を見つめて切り出した。
突然のことで驚いたけれど・・・。
「そう・・・ボクは大丈夫だよ、みんながいる、一人じゃないもの。あなたこそ・・・あなたは危険じゃないの?こんな、あちこちがきな臭いときに・・・」
出産への不安がないわけじゃなかったけれど、その頃は心身ともに体調も安定していたから、自分のことよりもヨーロッパのあちこちで戦争が始まっているこんな時期に外遊しなければならないレオニードのことが心配でならなかった。
「その火の粉が及ぶのをなんとか最小限に食い止めるためなのだ。案ずるな、私を誰だと思っている?おまえこそ、くれぐれもお転婆せずに大人しく過ごすのだぞ?皆にもよく申し付けておかねばな・・・」
「もう・・・子ども扱いしないでよ。ボク、これでももうすぐお母さんになるんだからね?」
―フ・・・。
ちょっとふくれっ面をしたボクの頬にキスすると、あなたはおもむろに上掛けのリネンをまくってずり下がり、大きなお腹にもキスしてきて言った。
「お母さまが無茶しそうになったら、お腹を蹴ってやるのだぞ?おまえも、お父さまが帰って来るまでは出てきてはならぬぞ・・・!?」
「あ!?動いた!」
「ああ!私にもわかった。了解したようだな?」
―ウフフフ・・・産まれる前からおりこうさん!
―ユリウス・・・愛している。
―ボクもだよ、レオニード・・・。
「いってらっしゃい、気を付けて・・・」
「躰を大切にな・・・」
そうして、あなたはフランスーパリに出かけて行った。
今思えば、数年後にボクらが暮らせる根回しをその時始めていたんだね。準備良すぎ・・・レオニード・・・あなた、いったいどんな思いで・・・?
更新日:2017-07-17 09:55:00