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小説

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そして・・・ここから!



「マーマ!お魚が見えるよ!」

初夏のエストニア、タルトゥ市街を流れるエマユギ河沿いの緑地広場。
一組の母子が水辺にほど近い芝に落ち着き、休日のひとときをのんびりと楽しんでいた。

「レオーン、だめだよーその辺はぬかってたから・・・」

お腹を満たすと少しもじっとしていられない息子の行方を目で追いかけながら、広場に着いてすぐに広げたランチボックスを片付けていた母だが・・・。

「あ!レオったら、またニンジン残して~もう、ヘンなとこあなたに似てるんだよね・・・」

何やら文句を言いながらグリーンリーフの下に隠されたニンジンのピクルスを口に入れると少し淋し気に微笑み、澄みきった青空を仰いだ。

―やっぱりさ、スチェパンにお料理習っててよかったんだね・・・あのとき言ったことがホントになっちゃった・・・びっくりしてる?ボク、ちゃーんと三度のご飯を手作りしているんだよ。あなたにも、食べてもらいたかったな・・・。

この母子がこの地に来て数か月、不慣れな土地での生活も無我夢中で軌道に乗せた、明るく健気で一見気丈そうなこの母の支えは・・・一人息子と、亡き夫への尽きぬ愛。
はるばるフランスから、夫が土となった国の傍に移り住んだ。
そこは近くて遠い、おそらくもう戻ることは許されない第二の祖国の隣国。
だが初めての土地ながら、母は懐かしさと安心感に日々癒されている自分にやがて気付いた。

―あなたの近くにいるからだね・・・。



「子供が川に落ちた!!」

突然のその叫び声に、物思いに耽っていた母はびくりとたじろぐ。
すぐさま弾かれたように立ち上がり、やおらに川辺へと駆け出していた。

「レオーン!?どこ?レオーン!」

「マー・・・!」

「レオーーン!!」

愛息の黒い頭が、水面に見え隠れしているのを見るや否や、母は履物だけを脱ぎ捨て、ためらいもなく水中に分け入っていく。

「いま行くよ、レオーン!」


ザッパーン!

その時、母の目線のすぐ先に大きな水しぶきが上がった。




更新日:2019-04-13 10:49:29

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