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小説

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未来へのレイル



「ここでお別れでございます。どうぞお元気で・・・」

「バイバイ、セルゲイおじちゃん!」

「レオーン様・・・早く大きくなられて、お母上を守って差し上げてくださいませ」

「・・・」

この10年余り慇懃な態度を決して崩さず、余計な言葉や会話は一切交わさなかった夫の部下のいつもとは違う感情の込められた別れの言葉を、ユリウスはどこか遠くに、まるで他人事のように聞いていた。

ロストフスキーの御する馬車が国境近くの駅裏に停まっても魂が抜けたように身動きしないユリウスを、ヴェーラはギュッと抱きしめてから「降りましょう」と促した。
ロストフスキーは主の妻と妹に恭しく頭を下げた後、レオーンの背丈に合わせてかがむと今まで見せたこともないような穏やかで優しい笑みを浮かべ、敬愛する主の愛息に話しかけたのだった。


簡素な挨拶の後、馬車から一度離れたヴェーラだったが「ちょっと待っていてね」二人を駅の裏口傍に待たせ馬車に駆け寄ると、御者台に再び乗ったロストフスキーに語りかけた。

「御苦労様でした、ロストフスキー大尉・・・今までの、兄に対するあなたの忠心に心から感謝しています。けれどもう・・・これからは、あなたはあなたの人生を生きてちょうだい。兄もきっとそれを望んで・・・逝ったに違いないから。わかりましたね?」

「ヴェーラ様・・・もったいないお言葉、痛み入ります。ユリウス様とレオーン様をどうぞよろしくお願いいたします。お気をつけて、ご無事を心からお祈りしております」

「ありがとう・・・ごきげんよう・・・」


~~~
侯・・・あなた様の愛するご家族のご無事を、最後まで見届けることは叶いませんでしたが・・・ここからは、天からあなた様が守っていかれることでしょう。
侯・・・遅ればせながら、セルゲイ・ロストフスキー、お供仕ります。
そちらで、再びお仕えできることを願って・・・永遠にあなたのお傍で!
~~~


―彼は、レオニードと同じところにいくのだろうか・・・ボクはいけなかったところへ・・・。

走り去る馬車を見るともなく眺めながらユリウスの心にふわりと湧き起こったのは・・・愛するひとに陰のように付き従っていた忠臣への、羨慕か嫉妬心か・・・。


「マーマ!きしゃぽっぽだよ!」

「!?」

その時、ぼんやりと立つ母の力ない手を振りほどき、レオーンが汽車の見える方向へいきなり走り出した。

「ダ、ダメだよ!レオ・・・」

「おっと!危ないじゃねえか!」

「ふぇ・・・」

「レオーン!?」

駅に向かう人々の雑踏にあっという間に巻き込まれた小さなレオーンは、すぐに誰かにぶつかり尻もちをついた。
我に返ったユリウスはすぐさま息子に駆け寄る。

「ぼやっとすんな!母親のくせにガキから目え離すな!」

「レオーン!!」

「マ、マーマー・・・」

「ユリウス?レオーン、大丈夫!?」

「ごめんね、レオーン・・・ごめん、ア、アアア・・・」

愛しい小さな息子を、レオニードとの愛の証を胸にしっかりと抱きしめると、ユリウスからこらえていた嗚咽がついに漏れ出る。
しかし彼女は、母としての魂を必死に奮い立たせた。

―しっかりするんだ・・・この子には、ボクしかいないんだ、ボクが守らなきゃ・・・! 

〈ユリウス、おまえなら大丈夫だ・・・頼んだぞ〉

―あ・・・レオニード!?

愛するひとの声が聞こえた気がした彼女は目を見開き、あたりを見まわした。
だが・・・雑踏の中に愛しい黒髪の偉丈夫を見つけることはできなかった。





更新日:2017-05-02 18:17:02

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