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ドドーン!
・・・・・キィィィィィーー!!
爆発の炎を認めた列車が急ブレーキをかけ、アレクセイ達が待ち構える地点に滑り込んでくると、混乱する車内に同志達が一斉になだれ込んでいく。
後方で爆破を誘導していたアレクセイが遅れて車内に入っていくと、見張りも騒ぎで離れたのだろう、アナスタシアは暗い座席で一人呆然としていた。
「アナスタシアか!?」
「・・・ア、レクセイ?ああ、どうして・・・?アレクセイ!」
信じられないものを見たかのように目を見開くと、アレクセイに向かっておずおずと手を伸ばした。
「無事だな?いくぞ!」
アレクセイは一瞬だけ肩を抱きしめてやり顔を覗き込むと、訳が分からず全く事態がのみ込めていない様子の彼女を引きずるようにして車外へ連れ出していった。
「確保した!撤収だ、急げ!」
多少のけが人を出しただけの作戦成功となり、ペテルスブルグに着いたのは真夜中をとうに過ぎた頃だった。
追手の危機も想定し、今夜は直接支部には向かわず同志ジーナ・ラザレンコのアパートにアナスタシアを泊める手はずになっている。
隣室が空き部屋なので、用心の為アレクセイと同志ラヴロフ・マルチェンコがそこに護衛として留まった。
「どこかケガはないか?疲れただろう?今日はここでゆっくり休むといい。オレは隣にいるから・・・」
「さ、まずはお茶で温まって」
道中、いきさつを説明されたが未だ不安げな様子で、部屋に着いても勧められるままにソファーに腰掛けた彼女の目線に合わせてしゃがみ込むと、アレクセイは彼女の手を取り安心させるように話しかけた。
ジーナが入れたお茶のカップも持たせる。
「アレクセイ・・・本当に、あなたなのね」
温かいお茶を口にしたアナスタシアは少し落ち着き、やっと現状を理解できたのか、瞳を潤ませ長年恋した相手を見つめほっとしたように微笑んだ。
「ああ、あんたのおかげで、オレは生きてこの街に戻ってくることができたんだ。本当にありがとう・・・やっと礼を言うことができた。とんだ辛い目を見させちまったけど、お互い生きててよかった・・・」
「・・・いいえ、いいえ、わたくしこそ、こんなご迷惑をお掛けしてしまって・・・もう二度とあなたにも会えないものだと・・・ああ、アレクセイ、アレクセイ・・・」
こらえ切れず大粒の涙を流し嗚咽する彼女の肩を、アレクセイはそっと抱きしめ優しく背中をさすってやる。
そんな二人の様子をじっと見ていたジーナは、小さなため息をついて首をふった。
「さ、もう休ませてあげましょう。お湯をたっぷり沸かしてあるから、湯浴みとはいかないけど体を拭いてさっぱりするといいわ。はい、男どもは隣!」
「ジーナ、よろしく頼む。何かあれば声をかけてくれ」
「ラジャー」
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「さて・・・むさ苦しいのは追いやったわ」
「あの・・・いろいろとありがとうございます」
泣きはらした顔を取り繕うように、アナスタシアはこの自分よりも一回り程年かさの女に頭を下げた。
「あら、まだお茶しか出してないわよ?私はジーナ・ラザレンコ、党員歴は長いけど・・・出戻りっていうか、一度結婚とやらを試したからその間はうちの支部は離れてたわね。あなたはこれから180度違う暮らしで大変だと思うけど、ここの連中は気のいいヤツばかりだから安心なさい。あら、おしゃべりが過ぎるわね」
そう早口でまくし立てたジーナは、その後この何をするにも戸惑いがちな元貴族のお嬢様の身支度を手伝い、あまり食欲はないという彼女にスープだけ飲ませるとベッドを整えてやった。
「あいにくベッドは一つしかないの。でも大きいから、悪いけれど半分こね?」
少し驚いたような表情をしたが、アナスタシアはにっこりと微笑み再び瞳を潤ませた。
「誰かと一緒に眠るなんて、何年振りかしら・・・昔は姉とよく・・・」
「ならよかった。アナスタシア・・・手足にいくつか痣があったけど、その・・・憲兵に酷いことはされなかった?辛いことを秘めておくのも苦しいから・・・」
更新日:2017-02-22 10:05:05