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小説

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各々のベクトル

挿絵 209*250


「すまない、ギリギリになっちまった・・・」

「ミハイル・・・おまえさんともあろう者が、ハラハラさせんなよ!」

「みんな、打ち合わせ通りの配置についてくれ!」

愛するアレクセイを脱獄させるため、地位や身分を顧みず粉骨砕身したアナスタシア・クリコフスカヤは些細な綻びが元で逮捕され、シベリアへの流刑が言い渡された。
彼女の献身によるシベリアからの帰還後、早くもボリシェビキの若手のリーダー的存在となっていたアレクセイにとっては見過ごせるはずもなく、今夜の奪回作戦決行となったのだ。

アナスタシアの乗った列車の通過予定時刻の5分前、ミハイルは十数人の同志と共に大型トラックで現れた。
荷台から慌てて降りてきた武装した面々は、装備の確認をしそれぞれの持ち場に着く。

「どうやら、列車も遅れてるみたいだな」

「ふん、やつらも警戒はしているんだろう、別の偽情報を流すほどだからな。こっちはその裏の裏をかいた形さ」

この辺りは駅がほど近いかなり大きなカーブで、必ず列車は速度を落とす。
そこへ先程線路脇に仕掛けた爆薬を発火し操縦を混乱させ、列車が止まったところでアレクセイとミハイル率いる武装班がアナスタシアを奪回するという今夜の作戦だった。

「列車が来るぞー!」

見張り役の声が響いた。

「アレクセイ、引火だ!」
「よし!」


時を同じくして、その頃~~~~~~~~~~

ドイツへ帰国するために長年過ごしたユスーポフ邸を後にしたユリウスだったが襲撃にあい、ケレンスキーらの陰謀で囚われの身となっていた。
そして先程、思惑を秘めたシューラの手引きでウスチノフ邸から脱したものの、モスクワには向かわず再びのペテルスブルグへと馬を走らせていた。

――レオニードが、なにか陰謀に巻き込まれるかもしれない。

ケレンスキーとブルジョワ階級の企みを知ったユリウスは、居ても立ってもいられずユスーポフ邸へ向かっていた。

――あなたは怒る?レオニード・・・でも、ボクはあなたの危機を見て見ぬふりはできないんだ。わかってくれるよね?

「ん?どう・・・」

線路沿いの道をひた走っていると、遠くに炎と煙が上がっているのに気付いたユリウスは慌てて馬を止める。

――こんな時間に、暴動?

どうやら止まっている列車の傍で小競り合いが起こっているようだ。

「くそ、こんな時に・・・」
――仕方がない、迂回するしかないな。ここで巻き添えをくらってる場合じゃない。

「おまえ・・・ごめんよ、無茶させて。レオニードのところまでどうか連れていっておくれ・・・ハイ!」

ユリウスにとってはおそらく初めての馬での疾走、遠乗り、加えて真夜中・・・心細いはずだったが、レオニードへの想いが彼女を奮い立たせていた。

――あと少し・・・。

あの晩感じた広く逞しい胸のぬくもりがじわりと心に甦るのが心地よい。
ユリウスはその恋しいぬくもりに向かって、ただひたすらに馬を走らせていくのだった。

――愛してる、レオニード・・・。



更新日:2017-02-21 22:16:32

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