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第6話 マグノリア~ベートーヴェン「ヴァルトシュタイン」
四旬節のころ、復活祭が近づいた土曜日のことだった。
僕らのカルテットは、いつも土曜の午前中に練習をした後、川沿いの古いソーセージ屋のテラスでビールを飲むのが習慣になっていた。
でも、その日は、僕は店には行かなかった。亡くなったいとこの命日だったからだ。一年でこの日だけは、彼女の写真を飾り、美しかった日々の思い出に浸ることを僕は自分に許していた。
優しい顔立ちで僕にいつも微笑みかけていた彼女は、写真のなかでいつまでも年をとらない。僕は、鏡のなかの自分の顔と、いつまでも変わらない少女の姿を見比べて、残酷なほど時が流れているのを感じずにはいられなかった。
部屋をノックする者がいる。奴だった。
「急に雨が降り出したので、今日は早めにお開きにした。それに、おまえがいないとつまらない。」と言いながら入って来て、机の上の写真に目を止めた。
「僕の死んだいとこだ。今日が命日だったんだ。」
「…そうだったのか。」
外の雨の音が聞こえる。
「もう4年になる。あの頃はずいぶんこたえた。」
「…そういえば、おれの兄貴が死んだのもその頃だ。両親は早くに死んだが、その時よりもはるかに強い衝撃を受けた。」
「そうだったんだな。」
やや沈黙があって、奴は学校の合同レッスン室に行こうと言い出した。
僕らのカルテットは、いつも土曜の午前中に練習をした後、川沿いの古いソーセージ屋のテラスでビールを飲むのが習慣になっていた。
でも、その日は、僕は店には行かなかった。亡くなったいとこの命日だったからだ。一年でこの日だけは、彼女の写真を飾り、美しかった日々の思い出に浸ることを僕は自分に許していた。
優しい顔立ちで僕にいつも微笑みかけていた彼女は、写真のなかでいつまでも年をとらない。僕は、鏡のなかの自分の顔と、いつまでも変わらない少女の姿を見比べて、残酷なほど時が流れているのを感じずにはいられなかった。
部屋をノックする者がいる。奴だった。
「急に雨が降り出したので、今日は早めにお開きにした。それに、おまえがいないとつまらない。」と言いながら入って来て、机の上の写真に目を止めた。
「僕の死んだいとこだ。今日が命日だったんだ。」
「…そうだったのか。」
外の雨の音が聞こえる。
「もう4年になる。あの頃はずいぶんこたえた。」
「…そういえば、おれの兄貴が死んだのもその頃だ。両親は早くに死んだが、その時よりもはるかに強い衝撃を受けた。」
「そうだったんだな。」
やや沈黙があって、奴は学校の合同レッスン室に行こうと言い出した。
更新日:2016-07-19 23:25:38