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第4話 夏の休暇~ヘンデルの主題によるパッサカリア

挿絵 474*711

【Photo: Brian Pargard】


僕らは、休暇のたびに、両親に連れられてヨーロッパの各地を旅行したり、僕の家の別荘で一緒に過ごした。特に奴が好きだったのは、オーストリアとの国境沿いにあるドイツアルプスの山々と森と緑の丘に囲まれた静かな別荘だった。

毎年、夏の休暇には、ミュンヘンから南に下り、山あいの小さな村に向かう。敬虔なカトリック教徒の多い地域で、家々の壁には美しいフレスコの宗教画が描かれている。村はずれの道を登り、さらに草地の広がる丘を登ったり下ったりしながら進む。その先の人里離れた静かな湖のほとりに、うちの別荘はあった。

一度だけ、奴に半分社交辞令で「アルラウネもよかったら一緒に。」と誘ったことがある。すると、奴は即座に「いや、おれだってたまには解放されたい。」と本気とも冗談ともつかない返事をする。
彼女は、僕らの学校に来ると艶やかに微笑んでいるが、時々はっとするほど思いつめた厳しい表情に変わることに僕は気づいていた。その時のただならぬ雰囲気、それが何なのか当時の僕にはよくわからなかった。僕らよりも明らかに年上の彼女には、踏み込んではいけない何かがあると感じた。

更新日:2016-10-16 12:56:39

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