• 作品を探す:

小説

携帯でもPCでも書ける!

  • 17 / 42 ページ

第3章 バラードの変容

挿絵 564*702

【Photo: Rich Franco】



夏の昼下がり、ミハイロフの家に行った。
屋敷に入ると、ピアノの音がかすかに聞こえる。
ショパンのバラード、あいつが弾いている。

おばあさまが迎えてくれる。
「ピアノが本当に好きなんだね。一日に何時間もいろいろな曲を夢中で弾いていますよ。お腹の子どもにはモーツァルトがいいと言っているんだけどね。とにかくおまえが来たんだから、すぐに呼んでこさせましょう。」
「いや、僕の方が行きますよ。」
「それなら早く行っておあげ。音楽室ではなくて、大広間の方ですよ。」

ピアノか。やっぱり本当は弾きたかったんだな。今の生活では買ってやれないし、アパートに置くこともできない。

大広間に近づくと、華やかなバラードの展開部が迫ってくる。

まだこの家の羽振りがよかったころ、舞踏会を開くボール・ルームとして使われていた部屋だ。今は、高い天井のだだっ広い空間にぽつんと大きなピアノがあるだけだ。

開いているドアごしにのぞくと、あいつがコンサート・グランドピアノの大屋根を上げ、譜面台も外して、思いっきり音を響かせて弾いている。
鍵盤側からみた奥行きが3メートル近くある、ベーゼンドルファーのコンサート・グランド。昔、ウィーンに注文して、取り寄せたという。音楽室にある子どもの頃に使っていた2メートルほどの普通のグランド・ピアノもいい音色だったが、このピアノの迫力にはかなわない。このピアノを前にして、モーツァルトだけ弾けなんて、ピアノ弾きには無理な注文だ。

更新日:2017-02-14 23:26:09

ショパン・バラード第1番 オルフェウスの窓ss Op.4