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序章  シベリアのすずらん

挿絵 500*750

【Photo: tewhiufoto】



シベリアから戻って数か月後、モスクワに行った。

9月下旬のモスクワは素晴らしい。木々が黄色く紅葉し、一年中でもっとも美しい季節、「黄金の秋」を迎えていた。

モスクワに行ったのは、支部の同志たちに直接会って元気な姿を見せ、顔つなぎをすることが、今後のサンクト・ペテルスブルクの活動にとっても、また、おれ自身にとっても有益だという上層部の判断からだった。おれがシベリアにいる間に新たに加わった仲間たちと知り合う上でも、よい機会だった。

今後の双方の活動について打合せをひととおり終えて一息ついたところで、若い同志が聞いた。
「アレクセイ、あなたがあの厳しいシベリアを生き抜くことができたのは、なぜですか。何に支えられていたのですか。」
おれは、即座に答えた。
「このロシアを改革しなければいけないという使命感と、同志たちとの強い絆がおれを支えた。それだけは、間違いなく言える。」
「でも、本当にそれだけですか。あの極寒の地での厳しい強制労働、心が折れることはなかったのですか。」

おれは、一瞬、返す言葉に詰まった。
「…ま、宗教が支えてくれたのではないことだけは確かだな。」と冗談を言って、ごまかした。皆が笑ったので、その話はおしまいになった。

あの極寒のシベリアで、おれの心を支えたものは、兄貴や同志から受け継いだ思いと革命への使命感、苦労を分かち合ってきた同志たちの存在。それは本当だ。でも、それだけではない。

あいつの存在もおれを支えてくれた。
遠いロシアまで会いに来てくれた輝く黄金の髪のおまえ。
おまえの姿は、きっと黄金の秋に映えただろうな。

煙草に火をつけて、美しいモスクワの公園を散歩した。



更新日:2016-10-16 21:37:49

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