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8、白き大地に生きて

挿絵 236*327

別れの時『ドミートリィ』-(1)


愛しき人たちよ。あなた方を悲しませることを、どうか許してほしい。本当は心から、あなた方を幸せにしたかった僕なのに。その想いを遂げられない未練だけは、今この瞬間も手放せないでいる。

だからといって、僕を憐れんだりはしないでほしい。心残りがないとは言わないが、僕には決して悔やむことなどないんだ。自分を恥じることも、したことに対しての後悔もない。罪人として裁かれ、不本意な結果を受け入れなければならないとしても、自分の人生が惨めだとは、僕は思わない。同情され、憐れに思われることこそ、このような人生を選んだ僕自身の誇りをくじくものだ。祖国を憂い、行動を起こし、そのことにむしろ誇りを持って、僕は死んでいくのだから。


アレクセイ、僕の愛する弟。兄が反逆者のそしりを受け、罪人となってこの身を終えようと、君もまたどうか誇り高く生きてくれ。僕達の進む道は、未来に向かって繋がっている。どんなに険しかろうと、その道は決して間違ってなどいない。勇気を持って、己の信ずる所へ突き進むんだ。


ヴァシリーサおばあさま、あなたの不肖の孫息子を、お許し下さい。僕の行動はあなたの名誉を傷つけ、結果として裏切ることになってしまった。どんなにあなたを苦しめるのか考えると、たまらなくつらい気持ちになる。でもきっといつの日か、あなたは僕のしたことを許してくれるでしょう。あなたはいつでも最後には、僕を理解してくれる人だった。

「本当に、ミハイルによく似ていること。」

僕のバイオリンを聞いては、嬉しそうに誉め、亡き母と忙しい父に代わってあらん限りの愛情を注いでくれた。秀才だ、バイオリンの名手だと周囲に言われ続けたけれど、たとえ何かの特質を持たなかったとしても、十分な愛情を僕に示してくれたにちがいない。実は寛大で愛情深いあなただったということを、僕は知っている。

おばあさまが僕の先に、愛してやまない息子のお父さまを見ていたことも、分かっていました。一粒種のお父さまは、おばあさまにとって愛する全て、生き甲斐そのものだった。僕を見つめる目を通して、どれだけあなたがお父さまを深く愛していたか、絶えず感じていました。僕には立派な父であり、素晴らしいバイオリニスト、目標にしたい芸術家だった。当主としても有能で、知性と人望を持った、何よりとても愛情豊かな人だった。あなたの、生涯の誇りだったのでしょう。お父さまを自分より先に亡くし、おばあさまの嘆きがいかばかりだったか。

そして今また、僕はあなたに先んじて逝こうとしている。あなたから受けた愛情は無駄ではなかったと、もっと早くに伝えるべきだったのかもしれない。僕にはもはや、そうすることができなくなってしまった。しかし証明されなくとも、それは紛れもない事実であり、僕の中に歴然と存在する。今まで本当にありがとう。あなたを悲しませることは本意ではないけれど、自らを恥じることなく、僕は旅立っていきます。

更新日:2017-10-09 11:44:56

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巡り会い【オルフェウスの窓ss Ⅲ 】