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1 、異邦人ーⅠ

挿絵 334*800

 
 パリにて『アマーリエ』

パリに来た。さようなら、美しく窮屈だった私の故郷。音楽を愛する者たちは祝福を受けるというけれど、私には自分を見つけられない場所でしかなかった。
立派過ぎる父、名家であるが故の体面。出自を知ってから、どこか空虚に生きてきた。彼女と知り合うまで。
愛する人に顧みられなくても自分を見失うことなく、自分で決めた道をあのカタリーナさんは歩んでいた。実母に代わって私を教育した継母や叔母、周りの女性たち。誰も彼女のような生き方を教えてはくれなかった。


 出国『アデール』

仲の良かった姉を頼り、祖母は海を渡った。統治者だったニコライ伯父様一家や、親族たちの死を決して受け入れようとはしない祖母。気丈な人だが、無理もない。実際そんな風に、現実を受け入れずにすむならどんなにいいだろう。
クーデターに失敗したレオニードは、さっさと一人で逝ってしまった。あの人らしいといえばあの人らしい。もし生きていたとしても、内戦状態の国内で王党派に加わり最後まで戦い続けたに違いない。別れて良かった、亡命する時に母に言われて苦笑した。
勧められるままに私と結婚した軍人。私を愛したからではない。ずっと長いこと家に置いていた、あの娘も故郷に返したと聞いた。結局国以上に女を愛したことなど、あなたはなかったのね。
国を追われた私たち。これからロシアはどうなっていくのか。あの人が命をかけて愛した祖国。愛する人も祖国も、失ってみて初めてその存在の大きさに気がつくなんて。


 仕事に生きて『カタリーナ』

ヴァイスハイト先生への想いを断ち切れないまま、周囲に流され貴族の娘らしい結婚をする。私にはもはやそんな生き方はできなかった。あの街を出なければ、自分の道を探さなければ。初めて両親に背いた。
この国に来てからも、私はヴァイスハイト先生のことが忘れられず想い続けた。けれど先生が愛したのは華やかで美しい年上の女性、そして伴侶として選んだ同郷の一途な女性だった。実ることはなかったが、それでも誰かをそれほどまで想える気持ちは私に強さを与え力をくれた。
故郷に帰ったヴァイスハイト先生は、今苦境の中にいる。愛する音楽とも向き合えずにいるのは痛ましくてならない。先生の支えになることができたら。だが私はいまだこのウィーンにとどまっている。それは自らの仕事ゆえなのか、それとも愛する人の復活を願ってやまないからなのだろうか。



[gdfalksen.com]

更新日:2017-05-20 10:44:21

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巡り会い【オルフェウスの窓ss Ⅲ 】