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東武の守り袋の秘密

「南海、なんか最近ご機嫌だね」
「そうですか?」
 いそいそと定時であがろうとする南海に、髙島屋はこの上なく不機嫌に声をかけてくる。
「事件が一向に解決していないのによく定時で上がろうと思えるよね」
「せやかてあの事件、僕の管轄外やないですか」
「へぇ。自分の管轄じゃなければ捜査の進み具合がどうだって関係ないっていうんだ?薄情だねぇ。江戸の町人たちはいつ自分が殺されるか戦々恐々としてるっていうのに…。南海は町人たちがどうなったって関係ないっていうんだね」
「そないなこと誰も言うてないやないですか」
 日々真面目に仕事に勤しんでいる自分がたまに早く帰ろうとしただけで、なぜこうも嫌味を言われなければならないのか、南海には全く理解できない。
 ムッと眉根を寄せる南海の態度が気に入らないのか、髙島屋の機嫌は更に悪くなる。
「上司に口答え?いい度胸だね、南海」
「とにかく、今日はお先に失礼します」
 また何か面倒ごとを任されてはたまらない、と南海は慌てて奉行所を飛び出した。
 飛び出した南海の手には球状に包まれた風呂敷包がひとつ。中には瑞々しい西瓜が入っている。
 未だ夏バテで臥せっている雷に水菓子なら食べられるのではないか、と思ったのだ。
 あれから何度か見舞いに訪れたが、雷の様子は日に日に悪くなる一方だった。
 二人の住まいは大黒屋内の店先に近い二間であった。それは、長屋住まいにさせて、万が一にも双子を良く思わぬものに襲われでもしたら…という三越の気遣いであった。
「御免」
 軒先で声をかけると、パタパタとかける音が聞こえ、引き戸が開けられる。
「南海様」
「雷殿に」
 南海は手土産の西瓜を音に手渡す。
「ありがとうございます。どうぞ、おあがりください」
 音に促され、南海は草履を脱いで三和土を上がる。案内された部屋で、雷は布団の上で体を起こし、ぼーっと手元を眺めている。
「雷殿、ご加減はいかがですか?」
「南海様…」
 力なく微笑む雷の顔は以前見舞った時に比べ、さらにやつれた印象を受けた。
「雷、南海様が水菓子を持ってきてくださったよ。冷やして後で出すからね」
 明るく声をかけ、音はパタパタと台所へお茶の準備をしに行く。
「お気遣いありがとうございます」
「いいえ。大したことあらへん。雷殿に元気になってもらわんと、僕の楽しみが減ってしまいます」
「楽しみ?」
「僕は福屋の芝居が大好きなんです。雷殿がいないと成り立たんでしょう?」
「そうですか、南海様にそう言ってもらえると嬉しいです」
 そう笑ってぎゅっと手に持っている守り袋を握りしめる。
「それは?」
「以前、東武様からいただいた守り袋です。ご利益があるとおっしゃってたから」
 そうさみしげに笑う雷の様子に、ただの夏バテとは違う何かを感じる。守り袋を握り締めるところなど、体以上に精神的に疲れ切っている気がする。
「南海様、麦茶をどうぞ。はい、雷も飲んで。汗かいたでしょ?」
 台所から戻ってきた音が、南海と雷に麦茶を差し出す。
「ありがとう」
 南海は差し出された麦茶を一口飲んだ。香ばしい麦の香りが口いっぱいに広がる。
「南海様もお忙しいんじゃありませんか?下手人、まだ見つからないんですよね?」
「下手人?」
 雷が不安そうに音を見る。
「ああ、雷は臥せってたから知らないか。ここんとこ、殺人事件が立て続けに起こってるんだよ。目撃した人もいないみたいで…」
 瓦版には下手人予想図なんか載ってるけど、と明るく答える音とは裏腹に、雷の顔色がみるみる悪くなる。
「もしかしてその事件の死体、体中切り傷だらけじゃない?それなのに、血の流れた形跡が一切ない、変な死体」
「うん、そう瓦版に書いてあったよ」
「やっぱり!」
 突如、雷が悲鳴を上げた。
「どうしよう、こんなお守りじゃきかない!どうしよう!どうしよう!」
「雷?急にどうしたの?お守りが何?もっと欲しいなら僕のもあげるから」
 明らかに様子のおかしい雷に、音は懐から赤い守り袋を取り出し雷に握らせる。
 赤い守り袋には五角形に五芒星が描かれている。晴明桔梗と呼ばれる護符だ。だが、この護符は違和感を感じる。
「逆なんや」
 あらゆる魔を退けるという強力な護符だが、本来の晴明桔梗とは逆向きに描かれている。それは当然、本来の目的とは逆の効力を発揮する。
「雷殿のは⁉」
「南海様?」
 二つの守り袋を雷から奪い、黒い方を確認すると、こちらは正規の晴明桔梗で間違いない。
 片方は魔除け、もう片方は魔を取り込む効力…一体どういうことや?
 呪符を持っているのは音なのに、弱っているのは雷の方だ。
 守り袋を渡す時、東武は何と言った?
「赤は雷さん、黒は音さんに」

更新日:2016-04-10 23:16:57

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