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秘められた力
物心ついた時から、親はいなかった。薄暗い部屋に閉じ込められ、死なない程度にそこに食べ物が放り込まれた。時折、やってくる優しい僧の存在だけが心の支えだった。そんなある日、数人の若い男が部屋に入ってきた。いつも食事を持ってくる不愛想な僧達とは違う、初めて見る服装の男たちはかなり酔っているようだった。
「おお、こりゃ上玉だ」
男の一人が上機嫌で顎をつかみ、顔を覗き込む。
「いくら坊主ったって一人や二人、生臭がいるはずなのに、小姓が一人もいねえなんざおかしいと思ってたんだ。あいつら、こんなところに隠していやがった」
「まあ、坊主の判断は正解だったんじゃねえの。こんなに小せえんだ。お前みたいのにあてがったらすぐに壊れちまう」
「違いねえ」
男たちは下卑た笑いを口にしながら二人ににじり寄り、纏うボロをはぎ取ると、そのまま押し倒す。
「おとなしくしてりゃあ極楽に連れて行ってやるからな」
べろり、と唇を舐めると、男たちは肌に手や舌を這わせ始める。なんだかわからず、とにかく黙ってその感触に耐えていると、ぐいっと足を持ち上げ大きく開かされた。尻の窄まりにぬるりとしたものがあてがわれる。
「暴れんなよ。ついでにお口も大きく開けときな。もしも歯を立てたらただじゃおかねえぞ」
いわれたとおりに口を開けると、いい子だ、と満足そうな笑みを浮かべ、自身の欲望を銜えさせた。
「んんっ!」
喉奥を突かれ、嘔吐きそうになったところにみちみちと音をさせながら、強引に窄まりを穿たれる。
「歯ぁ立てんなって言っただろうが!」
痛みに思わず歯を立てると、一物を引き抜き、激怒した男に頬を張られる。顎ががくがくし、頬がじんじんと痛んだ。
鉄臭さが鼻につく。それが、殴られて口の中を切ったせいなのか、はたまた強引に挿入され、窄まりが裂けたせいなのかはわからなかった。
暫く揺さぶられると、腹の中に熱い何かが吐き出される。幾度か中のものが痙攣し、ずるり、と出ていく。が、ほっとする間もなく体をうつぶせにされ、別の男のものが挿入される。
「ああああ」
声を出して痛みを誤魔化そうとするも、乱暴に突き上げられては無駄なあがきであった。痛みでもうろうとしながら視線を上げると、そこには同じ顔をしたもう一人の自分が同じように男たちに凌辱されていた。
もう一人の自分も、こちらを見ている。目と目が合った瞬間、体の奥底からぶわり、と怒りが込み上げてきた。
なぜ、こんな目に合わねばならないのか。
死ねばいい…そうだ、こんなやつら、みんな死ねばいい。
もう一人の自分もそう思ったのだろう。にやり、と笑っている。そして二人は同時に口を開く。
「お前たち、全員死ね」
*
*
*
初めて他人への殺意を明確に意識してから、しばらくしてからだった。二人で死を願った人間が変死体と化すことに気付いたのは。体には無数の切り傷、なのに一滴の血もこぼれていない不思議な死体。自分たちを虐げる者たちを排除してもいいという天啓だと思った。双子が不吉とはいえ、世の中には金に目が眩んだ怖いもの知らずや好事家が多少なりともいるらしく、そういった輩の間で売買された。売られた先の主人が気に入らなければ殺し、所有者がいなくなればまたよそに売られる。幾度かそんなことを繰り返した後、三越と出会った。畜生同然の雷と音に愛を注ぎ、教育を受けさせてくれた。役者として生きる道を拓き、双子でも生きていける世界をくれた。
三越はにわかに自分たちのこの能力を信じようとはしなかった。が、万が一にも人を殺めるようなことがあってはならないと諭し、以後この力を使うことを禁じた。
だから、あの日を境にこの力を使ったことはない。だが、夜毎、人が死ぬ夢を見る。例の変死体が江戸の町に倒れている夢を。それが妙に生々しく、また現場にいたのかと思うくらい鮮明に思い出されるのだ。
人を死に追いやるあの力は、二人の強い念によるものと思っていたが、実はそうではなかったのかもしれない。鬼子である自分の悪しき力なのかもしれない。もう誰も殺す気などないのに、毎日のように人が死んでいく。自分の能力が暴走しているのかもしれない、そう思うと体の震えが止まらない。もし、鬼子が人を呪い殺すということになれば、自分はおろか、同じ顔をした音も役者の道は絶たれる。何より、今まで面倒見てくださった旦那様にご迷惑がかかる。
「どうしよう…」
縋るように雷はぎゅっと掌の赤い守り袋を握りしめた。
「おお、こりゃ上玉だ」
男の一人が上機嫌で顎をつかみ、顔を覗き込む。
「いくら坊主ったって一人や二人、生臭がいるはずなのに、小姓が一人もいねえなんざおかしいと思ってたんだ。あいつら、こんなところに隠していやがった」
「まあ、坊主の判断は正解だったんじゃねえの。こんなに小せえんだ。お前みたいのにあてがったらすぐに壊れちまう」
「違いねえ」
男たちは下卑た笑いを口にしながら二人ににじり寄り、纏うボロをはぎ取ると、そのまま押し倒す。
「おとなしくしてりゃあ極楽に連れて行ってやるからな」
べろり、と唇を舐めると、男たちは肌に手や舌を這わせ始める。なんだかわからず、とにかく黙ってその感触に耐えていると、ぐいっと足を持ち上げ大きく開かされた。尻の窄まりにぬるりとしたものがあてがわれる。
「暴れんなよ。ついでにお口も大きく開けときな。もしも歯を立てたらただじゃおかねえぞ」
いわれたとおりに口を開けると、いい子だ、と満足そうな笑みを浮かべ、自身の欲望を銜えさせた。
「んんっ!」
喉奥を突かれ、嘔吐きそうになったところにみちみちと音をさせながら、強引に窄まりを穿たれる。
「歯ぁ立てんなって言っただろうが!」
痛みに思わず歯を立てると、一物を引き抜き、激怒した男に頬を張られる。顎ががくがくし、頬がじんじんと痛んだ。
鉄臭さが鼻につく。それが、殴られて口の中を切ったせいなのか、はたまた強引に挿入され、窄まりが裂けたせいなのかはわからなかった。
暫く揺さぶられると、腹の中に熱い何かが吐き出される。幾度か中のものが痙攣し、ずるり、と出ていく。が、ほっとする間もなく体をうつぶせにされ、別の男のものが挿入される。
「ああああ」
声を出して痛みを誤魔化そうとするも、乱暴に突き上げられては無駄なあがきであった。痛みでもうろうとしながら視線を上げると、そこには同じ顔をしたもう一人の自分が同じように男たちに凌辱されていた。
もう一人の自分も、こちらを見ている。目と目が合った瞬間、体の奥底からぶわり、と怒りが込み上げてきた。
なぜ、こんな目に合わねばならないのか。
死ねばいい…そうだ、こんなやつら、みんな死ねばいい。
もう一人の自分もそう思ったのだろう。にやり、と笑っている。そして二人は同時に口を開く。
「お前たち、全員死ね」
*
*
*
初めて他人への殺意を明確に意識してから、しばらくしてからだった。二人で死を願った人間が変死体と化すことに気付いたのは。体には無数の切り傷、なのに一滴の血もこぼれていない不思議な死体。自分たちを虐げる者たちを排除してもいいという天啓だと思った。双子が不吉とはいえ、世の中には金に目が眩んだ怖いもの知らずや好事家が多少なりともいるらしく、そういった輩の間で売買された。売られた先の主人が気に入らなければ殺し、所有者がいなくなればまたよそに売られる。幾度かそんなことを繰り返した後、三越と出会った。畜生同然の雷と音に愛を注ぎ、教育を受けさせてくれた。役者として生きる道を拓き、双子でも生きていける世界をくれた。
三越はにわかに自分たちのこの能力を信じようとはしなかった。が、万が一にも人を殺めるようなことがあってはならないと諭し、以後この力を使うことを禁じた。
だから、あの日を境にこの力を使ったことはない。だが、夜毎、人が死ぬ夢を見る。例の変死体が江戸の町に倒れている夢を。それが妙に生々しく、また現場にいたのかと思うくらい鮮明に思い出されるのだ。
人を死に追いやるあの力は、二人の強い念によるものと思っていたが、実はそうではなかったのかもしれない。鬼子である自分の悪しき力なのかもしれない。もう誰も殺す気などないのに、毎日のように人が死んでいく。自分の能力が暴走しているのかもしれない、そう思うと体の震えが止まらない。もし、鬼子が人を呪い殺すということになれば、自分はおろか、同じ顔をした音も役者の道は絶たれる。何より、今まで面倒見てくださった旦那様にご迷惑がかかる。
「どうしよう…」
縋るように雷はぎゅっと掌の赤い守り袋を握りしめた。
更新日:2016-04-10 23:14:24