官能小説

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東武の怪談

 暗闇の中、蝋燭の明かりがぽうっと浮かび上がる。中心に座するのは青白い肌のひょろりとした優男。男が言葉を紡ぐ度、周囲の温度が下がり、冷気が漂う。
 村長の一人息子、倫(りん)は見目麗しく、見るもの皆、心を奪われた。彼は愛情を惜しみなく注がれ、すくすく成長していった。村中の男の心を奪った倫と恋仲になったのは寺の高僧、翁(おう)であった。ゆっくりと愛を育んでいく二人であったが、村長が急逝したことにより、事態は急変する。翁が仕事で村を出ている間、事件は起こった。倫に心奪われた村人たちの一人がぽつりと言う。
「何故我々が彼を諦めねばならぬのか。想いは皆同じ。なれば皆で共有すればいいのではないか」
 何気ない一言が男達の理性の鎖を断ち切り、内に棲まう獣を解き放つ。倫の抵抗むなしく、数多の男たちに代わる代わる嬲られる。
 幼き頃より可愛がってくれた年嵩の男も、幼き頃より共に成長した友も欲に塗れた瞳で倫の体を貪った。貫かれる痛みに声が駆れるまで泣き叫ぶ。
「翁!助けて!」と。
 悪夢のような一夜が明け、体の中も外も男たちの吐き出したものに塗れた倫は、焦点の定まらぬ中、ふらふらと山道を登り、村のご神木へと向かう。
「許さぬ…一人残らず殺してやる!こんな村、滅びるがいい!我が恨み、とくと思い知るがよい!」
 血の吐く思いで怨嗟を口にすると、倫はご神木の下で腹を一文字に掻っ切った。苦悶の表情を浮かべ、ごふり、と口から血を滴らせる。ご神木にもたれながら、震える手で首を掻っ切る。おびただしい血液がご神木を汚していく。
 倫が息絶えた直後、空にはみるみる暗雲が立ち込める。午後になると風と雨が吹きすさぶ中、まぶしい光と、耳をつんざくような雷鳴を携え、あたりに雷が落ちる。雷は木々と共に家を焼いた。嵐の中、村が炎に焼き尽くされていく。嵐と炎が治まるまで一昼夜要した。翁が仕事を終えて村に戻った時には、寺の一部が焼け残った以外は全てが灰塵と化していた。
「いったい何が…」
 訳が分からぬまま、翁は倫を探す。何度も何度も名を呼びながら。やがて、翁は変わり果てた倫を見つける。そしてその傍らで赤子が泣き喚いていた。滂沱の涙を流しながら倫を抱きしめる。「どこにいても、お前が呼べば駆けつける。なにがあってもお前を守る」それが翁の口癖であり、そんな彼に倫はいつも「嬉しい」と幸せそうな笑みを浮かべていた。それなのに、自分は彼を守れなかった。自分のふがいなさに打ちのめされ、こうして倫を抱きしめたまま息絶えてしまいたい、翁はそう思った。が、赤子をそのままにしておくわけにもいかず、のろのろと体を起こし、ご神木のふもとに倫を埋めた。そして、赤子を抱きかかえ、とぼとぼと焼け残った寺へと帰っていった。
 倫を想って泣きながら、翁は赤子を育てた。赤子はすくすく成長していく。どこか倫の面影が残る赤子を、翁は大事に慈しみながら、倫の菩提を弔う日々。倫が死んでから三年後のある夜、嵐がやってきた。大風と雨、そして轟く雷鳴に震える子を抱きしめ、翁は優しく頭を撫でる。
「そう怯えずともよい。何があっても私が守るから」
 そう囁く翁の腕の中で、嘘つき、と子が呟く。ぎょっとして子を見ると、にたり、と子が嗤う。
「そういって、お前は私を守ってくれなかったくせに」
 男がそう言った途端、南海の意識がぷっつりと途絶えた。

               *
               *
               *

 ふわふわふわふわ、茶色がかったものが目の前を横切る。それは昔、家に居ついていた猫に似ていた。人にも動物にも好かれない自分に、唯一なついてくれたあの猫を自分は何と呼んでいたのか…ああ、確か、みゃあや。小さな声でみゃあみゃあ鳴くのが可愛かったんや。
幸せな気持ちで目の前の毛を優しく撫でてやる。
「どうしたみゃあ。餌が欲しいんか?」
「みゃあ?」
「ほんま、かわいい」
 昔に比べずいぶん鳴き声が低くなったものだが、返事をされたのが嬉しくていつものように懐に抱く。
「ちょっ…南海様っ!」
 はて?みゃあはこんなに大きかっただろうか?
「南海様、寝ぼけてないで起きてください!」
 ぽかぽかと背中を叩かれ、目を瞬いて己の抱きかかえているものを良く見ると、それは猫ではなく、明るい茶色の髪をした青年であった。
「…みゃあじゃない」
 見覚えのある青年は福屋の看板役者、音であった。
「音殿⁈すすすすすまないっ!」
 南海はがばりと体を起こし、慌てて音から距離を取る。
「よかった、俺、旦那様を呼んでくる!」
 そう言って、先程まで南海の背中を叩いていた雷が部屋を飛び出していく。
「何故音殿がここに?僕はいったい……?」

更新日:2016-04-10 23:01:25

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