官能小説

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暫し引続き町方預かり

「お奉行!またこんなところで油売ってはる!」
 息を切らして南海が駆け付けた先は江戸一番の紺屋『伊勢屋』軒先で高島屋が暢気に三越と談笑している。
「お奉行がさぼってばかりいるから仕事が回らんやないですか!本気で仕事するいったんは嘘やったんですか?」
 目を吊り上げる南海に、高島屋はにっこりとほほ笑む。
「お前に嘘をつくはずないじゃないか。私は言ったはずだよ、お前が向こうに戻って仕事が回らなくなったら本気で働くって」
 裏を返せば、南海が町方預かりでいるうちは本気で働く気はさらさらないということだ。
「またそないな頓智みたいなこと言うて誤魔化して!」
「うるさいね。お前には傷心の上司を労わろうって気持ちはないの?」
「傷心?」
「そうだよ?一番信頼して可愛がってた部下に信頼してもらえず命令違反された上司の気持ち、お前にわかる?」
 あれからというもの、高島屋は事あるごとにあの一件で自分がどれだけ傷ついたかを嫌味のように南海に言ってくる。最初は申し訳ないと小さくなっていた南海だが、さすがにこうも度々仕事をさぼる理由に使われてはたまらない。
部下に信頼されようと努力しはってもええんやないですか?」
「なにお前、私が悪いっていうの?」
「悪いとかそういうんじゃなくてですね…」
「じゃあなにさ。返答次第では今日、仕事しないからね」
「むちゃくちゃな!」
 自分の口答えに機嫌を損ねた髙島屋に、南海は何を言っても無駄な気がした。山のようにたまった仕事を考えると胃が痛くなる。
「お奉行が前回の一件で傷ついたのはようわかってますし、僕も反省してます。せやけどええかげん機嫌直して働いてもらわんと、仕事が回らんのです。僕がおるせいでお奉行は働かんで仕事が回らんとなると、僕は寺社方に戻らなあきまへん。お奉行はそれでもええかもしれませんが…僕はまだ、お奉行と働きたい思ってます」
 もう少し、お奉行を知りたい思った。せやから松坂屋様の誘いを断ったんや。
「ふうん。お前はそんなに私が好きか」
 髙島屋が面白いものを見つけたようににやにやしながら南海を見る。
 この目、また僕を揶揄う気や!
「そうかそうか、それなら仕方ないね」
 にやにや笑うも、高島屋は不思議とそれ以上何も言ってこなかった。どうやら奇跡的に機嫌が直ったらしい。重い腰をようやくあげてくれた。
「可愛い部下にそこまで言われちゃ仕方ないね。南海、そこの茶屋で甘いものでも食べて帰ろうか?」
「そないなことしてる暇ありませんって」
「大丈夫、大丈夫。その後ちゃんと本気で仕事するから」
「なら、買うて帰ればええやないですか。僕がああいうとこ苦手なの知ってるやないですか」
「苦手?お前…あの双子とは茶屋で甘味食べたんだろう?あれとは入れて、私とは嫌だっていうの?」
 髙島屋の直ったはずの機嫌がすぐさま急降下していく。
 どうしてお奉行はそうやって雷殿や音殿と張り合うんですか!
 この後、茶屋の店員に取られる態度を考えただけで泣きそうになる。が、これを拒否して髙島屋にへそを曲げられたら確実に泣く羽目になるだろう。
「そないなこと言うてません…ご相伴にあずかります」
「そう?じゃあ行こうか」
 ご機嫌な髙島屋の後をがっくりと肩を落としてついていく。
 可愛い部下と言うのなら、もう少し優しくして欲しい、そう思わずにはいられない南海だった。

                *
                *
                *


 江戸市中を騒がせていた連続殺人事件は無事解決し、町は平穏を取り戻した。
東武の怪談は夏の江戸の風物詩となるほどの好評をもって幕を閉じた。その頃になると雷も音も無事に回復し、音の方は刀傷の跡が残るものの、幸い後遺症はなく、無事、次の舞台に立つ手はずとなった。
 福屋の地方巡業の件についても、地域限定で許可が下り、その際には秘子を戒める題材を扱った演目を上演することが義務付けられた。
 秘子の凌辱、怨念の果てに生まれた子供、凌辱に関わった者たちの凄絶な死。悪霊と化した恋人の魂を宥め、生涯を賭して菩提を弔いながら遺児を育てる僧の悲しい恋物語は『菊理桜(くくりざくら)』と題され、後の世に伝えられていくこととなる。


                          終

更新日:2016-04-30 23:52:54

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