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「せやから、最初からお奉行が説明してくれたら良かったんじゃないですか」
「そうだね、今回でよくわかったよ。お前は僕の命令は聞かないってことがね」
「そないなこと言うてないやないですか」
「お前は僕よりその双子がいいんだろ?」
「なに子供みたいなこと……」
いつも以上につまらない言いがかりをつけてくる髙島屋に、南海は言葉を失う。
「大好きって言われなれないことを言われて絆されたか?」
「なんで……」
二人の会話をいつの間にか聞かれていたのかと、南海の頬にさっと朱が走る。そんな南海の態度にますます気を悪くしたのか、眉をひそめて言葉を続ける。
「何が甘いものを食べてる顔が可愛いだ、怖い顔してるくせして本当は優しいだ…そんな事だったら私なんてずっと昔から知ってるさ」
「え?」
思いがけない台詞に南海の思考が停止する。そんな南海にはっとして、高島屋はごほん、と咳払いをした。
「そうだ、お前に伝言があったんだ」
「伝言?」
「帰りたかったら帰って来い、と寺社奉行殿が仰せだ」
「帰って来いって…お奉行はいいんですか?仕事だって僕が抜けたら回らんじゃないですか」
突然の命令に南海は戸惑いを隠せない。
「元々は向こうのものだし、仕事も心配しなくていい。本気になって私が働けばいいだけだ。だからお前の好きにするといいよ」
突き放した高島屋の物言いに困惑する。
「三日後、松坂屋さんがここに来るから、その時に返事をするといい。それまでお前、出仕しなくてい
そういうと、高島屋は南海に背を向けそのまま退出する。
お奉行にはもう自分は必要ないんやろか?
好きにしていいといわれ、南海はどうしていいかわからなかった。
*
*
*
「髙島屋様は怒ってるんでしょうか?」
開口一番、眉をへの字にしてそんなことを聞いてきた南海に、松坂屋は頬を緩める。
「どうしてそう思うの?」
「今まで、髙島屋様が僕に好きにしていいなんて言うた事ないですから。きっと、今回の件で僕が命令通り動かんかったから怒ってはるんです」
泣きそうな顔でいる南海に、これは当分こっちには戻ってこないな、と松坂屋は確信した。
「怒ってるっていうよりいじけてるんだよ、彼は」
「は?」
そんな馬鹿な、と南海は目を丸くする。
「そもそも、南海はどうして今回彼の命令を聞かなかったの?」
「…音殿を殺したくなかったんです。髙島屋様は最初から殺すつもりはなかったんですが、勘違いするようなこと言わはるから。もう少しきちんと説明くれはったら僕やって…」
「そうだね。でもさ、今までだって髙島屋は君に説明なんてしなかっただろ?なのに君は命令を聞いた。それは何故?」
何故って、それは…。
「髙島屋様の考えはさっぱりわからんですし、つまらん嫌がらせは山のようにしますけど、肝心なところで道理に反するような真似をする方じゃありませんから…」
そうや。なんだかんだ言うても、お奉行のすることはいつも正しかった。せやからわけわからんでも信頼して動けたんや。
はっとする南海に松坂屋がにっこり笑う。
「そう。なのに君は何故か今回だけは髙島屋の命令が聞けなかった。それは君が高島屋を信頼できなかったからだ。だから彼はいじけているんだよ」
「怒ってるの間違いやないですか?」
「そんな大層なもんじゃないよ。お気に入りの君が自分よりあの双子を優先したってことが気に入らないだけだよ」
『お前は僕よりその双子がいいんだろ?』
そう言えばお奉行はしきりにあの双子のことを気にかけていた。てっきりいつものつまらない難癖だとばかり思っていたのに……。
「南海、君が高島屋を見限ることがあってもその逆はないと思うよ。だからね、君が彼に愛想が尽きたらいつでもこっちに戻っておいで」
そう微笑む松坂屋に、南海は顔を真っ赤にして頭を下げた。
「そうだね、今回でよくわかったよ。お前は僕の命令は聞かないってことがね」
「そないなこと言うてないやないですか」
「お前は僕よりその双子がいいんだろ?」
「なに子供みたいなこと……」
いつも以上につまらない言いがかりをつけてくる髙島屋に、南海は言葉を失う。
「大好きって言われなれないことを言われて絆されたか?」
「なんで……」
二人の会話をいつの間にか聞かれていたのかと、南海の頬にさっと朱が走る。そんな南海の態度にますます気を悪くしたのか、眉をひそめて言葉を続ける。
「何が甘いものを食べてる顔が可愛いだ、怖い顔してるくせして本当は優しいだ…そんな事だったら私なんてずっと昔から知ってるさ」
「え?」
思いがけない台詞に南海の思考が停止する。そんな南海にはっとして、高島屋はごほん、と咳払いをした。
「そうだ、お前に伝言があったんだ」
「伝言?」
「帰りたかったら帰って来い、と寺社奉行殿が仰せだ」
「帰って来いって…お奉行はいいんですか?仕事だって僕が抜けたら回らんじゃないですか」
突然の命令に南海は戸惑いを隠せない。
「元々は向こうのものだし、仕事も心配しなくていい。本気になって私が働けばいいだけだ。だからお前の好きにするといいよ」
突き放した高島屋の物言いに困惑する。
「三日後、松坂屋さんがここに来るから、その時に返事をするといい。それまでお前、出仕しなくてい
そういうと、高島屋は南海に背を向けそのまま退出する。
お奉行にはもう自分は必要ないんやろか?
好きにしていいといわれ、南海はどうしていいかわからなかった。
*
*
*
「髙島屋様は怒ってるんでしょうか?」
開口一番、眉をへの字にしてそんなことを聞いてきた南海に、松坂屋は頬を緩める。
「どうしてそう思うの?」
「今まで、髙島屋様が僕に好きにしていいなんて言うた事ないですから。きっと、今回の件で僕が命令通り動かんかったから怒ってはるんです」
泣きそうな顔でいる南海に、これは当分こっちには戻ってこないな、と松坂屋は確信した。
「怒ってるっていうよりいじけてるんだよ、彼は」
「は?」
そんな馬鹿な、と南海は目を丸くする。
「そもそも、南海はどうして今回彼の命令を聞かなかったの?」
「…音殿を殺したくなかったんです。髙島屋様は最初から殺すつもりはなかったんですが、勘違いするようなこと言わはるから。もう少しきちんと説明くれはったら僕やって…」
「そうだね。でもさ、今までだって髙島屋は君に説明なんてしなかっただろ?なのに君は命令を聞いた。それは何故?」
何故って、それは…。
「髙島屋様の考えはさっぱりわからんですし、つまらん嫌がらせは山のようにしますけど、肝心なところで道理に反するような真似をする方じゃありませんから…」
そうや。なんだかんだ言うても、お奉行のすることはいつも正しかった。せやからわけわからんでも信頼して動けたんや。
はっとする南海に松坂屋がにっこり笑う。
「そう。なのに君は何故か今回だけは髙島屋の命令が聞けなかった。それは君が高島屋を信頼できなかったからだ。だから彼はいじけているんだよ」
「怒ってるの間違いやないですか?」
「そんな大層なもんじゃないよ。お気に入りの君が自分よりあの双子を優先したってことが気に入らないだけだよ」
『お前は僕よりその双子がいいんだろ?』
そう言えばお奉行はしきりにあの双子のことを気にかけていた。てっきりいつものつまらない難癖だとばかり思っていたのに……。
「南海、君が高島屋を見限ることがあってもその逆はないと思うよ。だからね、君が彼に愛想が尽きたらいつでもこっちに戻っておいで」
そう微笑む松坂屋に、南海は顔を真っ赤にして頭を下げた。
更新日:2016-04-30 23:49:12