官能小説

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奉行命令

 守り袋を竈で燃やし、灰になるのを確認するとすぐに南海は奉行所へと飛んで戻った。
「お奉行!」
 他の同僚たちは組屋敷に戻ったのか、所内はひっそりとしており、髙島屋の文机だけが行燈(あんどん)に照らされている。
「南海、いいところに。久々にお前に仕事だよ」
「仕事はいつもしてるやないですか」
「馬鹿だねえ、いつものは手伝いだろ?長いこと町方(まちかた)の仕事してたから忘れちゃった?自分の立場」
 ハッとして顔を上げると、珍しく髙島屋がにこりともせず真顔でいる。
「寺社奉行吟味物調役(ぎんみものしらべやく)、南海。お前に仕事だよ」
 久々に聞く肩書に冷や汗が流れる。町方が市政全般を統括するのに対し、寺社方は寺社やその所領、僧侶や神職、また芸能関係を取り仕切る。南海に任される寺社方の仕事は寺社関係の係争の吟味の準備と憑き物関係だった。とはいえ、知識はあるものの、霊力に至っては一般人より多少マシな程度なので、除霊関係は全く役に立たない。除霊や調伏に必要な札を取りそろえたり、能力者の護衛が主であり、そんなことは自分でなくとも事が足りる為、最近では人手が足りない町方へ臨時で手伝いに出されていたのだ。
 手伝いとはいえ五年もの間町方預かりになっていたので、まさか今更自分に寺社方の仕事が来るとは思っていなかったのだ。
「明日の夜、福屋の音を斬れ」
「音殿を⁈なんでなん!」
「なんでって…あいつが連続殺人事件の犯人だからに決まってるだろう?」
 思いもよらぬ高島屋の一言に耳を疑う。
「そんな馬鹿な!怪しいのは音殿やない!最近福屋の小屋を借りて夜な夜な怪談噺をしてる東武って学者や!本人は学者言うとるけど、それかてほんまかどうか!音殿に呪符まで渡してたんや、絶対何かあります!」
「犯人は音だよ」
「お奉行、何を根拠にそないなことを!」
「簡単だよ、あいつが鬼子だからさ」
「鬼子?鬼子って先に産まれた方ですよね?」
「そうだよ、先に産まれた子。音だろ?先に産まれたのは」
「先に産まれた子を雷、後に産まれた子を音名付けたんやから、鬼子は雷殿やないんですか?」
「お前と話してるとややこしいね」
 髙島屋はめんどくさそうにガリガリと頭を掻く。
「確かに鬼子を雷、菩薩子を音と名付けたんだろうよ。同じ顔、同じ体格、同じ性別の子供が産まれてから微動だにせず並んでるわけ?人形じゃあるまいし、そんなの無理だろ。本人達になにか印をつけてるわけでなし、お前みたいに特殊能力があるわけでもなし、村人たちはどうやって二人を見分けてたと思う?見分けられるわけないよね」
 言われてみれば確かにそうだ。
「あの双子はある時は雷、ある時は音って呼ばれるわけだろ?いつしか二人は思ったわけだ。自分は雷、自分は音だと。それが本来とは入れ替わってたってわけだよ」
「でもそんなん…最初にどっちが産まれたかなんてわからんじゃないですか」
「だからそういうのがわかる専門家に見立ててもらった。結果、音が鬼子だってわかったわけだ。納得した?」
「納得って…そもそもなんで鬼子だと殺さなあかんのです?」
「そこから説明?お前、生まれは賀茂だろう?そんなことも実家で教わらなかったわけ?」
 京で名を馳せる陰陽師の名門賀茂(かも)家。それが南海の生家であった。稀代の陰陽師を輩出している家において、一般人と大して能力の変わらぬ南海はお荷物以外の何物でもなかった。成人後、生家の仕事の繋がりで江戸で寺社方としての職を得て今に至る。
「賀茂家言うても僕はみそっかすでしたから」
「多産児が畜生と同じで縁起が悪いなんてこじつけは、そもそもは双子殺しを隠蔽するために作られた話だし」
「双子殺し?」
「そう、しかも片割れじゃなくて基本両方ね」
「なんでまた…」
「双子っていうのはさ、母親の怨念が詰まってるからさ」
「怨念?」
「そう。妊娠時、女は胎児と同時に自分の怨嗟もゆっくり育てるんだ。はちきれんばかりに膨れ上がる胎内で。そして出産する。一人は普通のもう一人は自分の怨嗟と魂のかけらがたっぷり詰まった乳児。何故鬼子と呼ばれる方に母の怨嗟が継承されるのか、それは魂のない憑代(よりしろ)だからだよ」
「魂が…ない?」

更新日:2016-04-24 21:52:11

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