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第2章

「翔梧!」
 聞き覚えのある兄の声で翔梧は正気に戻った。
――何だ、今まで見たのは夢だったのか。
と、思ったがなにか変だ。翔梧の身形すべてが妙に若々しい。
“どうだ、十三年前に戻った気分は。若くなるのだから、そう悪くはないだろう”
先ほどまで話していた男の声がする。
 翔梧もこの頃は兄の庇護のもと何の屈託もない。
「十三年前? 十二年前ではないのか」
“先ほど、十二本は過ぎたと言ったはずだ”
「減らず口をたたく。お前は誰だ!」
”何度も言わせるな、俺はお前の兄だと言ってるではないか”
「でたらめを言うな、兄の声なら今しがた聞こえた」
「翔梧、何をぶつぶつ言っている、さっきからおかしいぞ。呼んでいるのに聞こえないのか、早くしろ」
“ほれほれ、怖い兄様のお呼びだ。さてと、俺もしばらくは然るべき所に収まるとするか”
 翔梧は兄とは呼べない男の声に構っている暇などない。
「あっ、兄さん聞こえているよ、すぐに行きます」
 急いで部屋を出た翔梧は小走りで居間に向かった。

更新日:2016-06-05 13:52:06

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