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episode8 再会A

飛田の全身全霊を込めた一撃は、見事に智焔の左胸に直撃し、その体を貫く筈だった。

一撃を与えた直後の飛田は異変に気づけないでいた。

「どうだ?」

飛田の確認の声も智焔には聞こえてはいない。

あるのは本来であれば痛みだけの筈だったのだ。

その時だった。

水が噴き出し、滴るような音がしたのは。

飛田の口からは血がトプッと零れた。

「えッー…?」

飛田の左手は、智焔の左胸手前で抑えられていた。

左胸には指先1つ微かに触れていただけだった。

気付かれないはずなのに、何故か。飛田の中には絶望だけが湧いて上がってきた。

飛田に触れているからか、智焔には飛田の姿が見えるようになっていた。

はてまた、絶望に飲まれたせいで飛田が無意識の内に能力を解除したのかもしれない。

どちらにしろ、事実。智焔には飛田の姿が視界に映っていた。

「なんだ、いたのか!」

歓喜を口にした直後、飛田の腹部が瞬時に貫かれ大きく穴が空いた。

赤く黒い穴からは血がとめどなく溢れ続けてた。

「ど…うして……。」

苦し紛れの声。散り際の言葉だった。

(左胸に触れた時に反射で僕に気付いたのか?
だとしたら…)

「化け物…め…。」

(力が違いすぎる。)

そのまま飛田の意識は闇に沈んでいった。

智焔は意識が飛んだ飛田をそのまま床に伏せた。

「終わったか。次へ向かうとしよう。」

数十歩、歩いた時にとある声が智焔の耳に入った。

「負けてねェ…。」

ふらふらと、立ち歩いてくる落田の姿がそこにはあった。

右腕はダランと、ぶら下がっている。

「俺らはまだ…」

智焔は一瞬で落田の眼の前まで間合いを詰め、右手で落田の首を絞め、持ち上げた。

「うぐっ…。」

呼吸がし辛いのか、落田は苦しさをそのまま表情へ表した。

「1つ教えてやろう落田。お前に免じてな。」

智焔は笑みを浮かべていた。

「お前らは自分の能力に頼りすぎている。」

「お前だって…」

落田の言葉はその後の智焔の答えによって掻き消された。

「俺の能力か、そんなモノない。」

智焔はそのまま落田をコンクリート製の床へ、思い切り叩きつけた。

ヒビ割れ、体が埋まるほどに。

「カハッ!!!!」

落田の体にはとてつもない衝撃が襲っていた。

その衝撃で落田はその後、気絶するが、気絶するまで智焔の事を怨み、強く睨みつけていた。

(その面、覚えたぜ。次、殺す…。)

体内で骨が折れていく音を聞きながら強く恨んだ。

(絶対、殺してやる。)

こうして、落田と飛田の敗北が決定づけられた。

伏した落田には眼もくれず、智焔はそのまま階段の先にある上の階への扉を睨みつけている。

更新日:2016-06-10 12:00:17

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