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四つ目屋の長命丸

「アホやな~お前」
「うん、俺もそう思う」
 怒りにまかせて三越さんを馬鹿呼ばわりし、結局走って行きついた先が馴染みの湯屋って……。
「どうせ湯屋に来るなら一緒に来りゃええやん」
「だから湯屋に来るつもりはなかったんだって。それにこんな混んでる時間帯、三越さん連れてくんのやだよ。みんなしていやらしい目でじろじろ見るじゃねえか」
「そりゃまあ…見るやろ。あの三越太夫の裸が拝めんだから。しかもロハで」
「見るだけじゃなくてその汚ねえもんもおっ勃てんだろうが」
「そりゃあな。勃てるっていうか、勃っちまうっていうか……」
「わかったからみなまで言うな。て言うか、お前仕事しなくていいのかよ」
「今は親父が店番してっからええんや」
 上方出身の湯屋の跡取り息子の大丸は、なぜか自分と肩を並べて湯につかっている。
「なあ大丸、お前四つ目屋の長命丸って知ってるか?」
「え?てか、お前知らんの?マジで?いや~そこまで来るとおぼこい通り越して気持ち悪いわ」
 大丸の驚きように伊勢丹の方が驚愕する。そんなに有名なものなのか?
「知ってんなら教えろよ」
「四つ目屋って言うたら両国にある有名な媚薬と秘具の専門店やろ?入るやつおらんやろ!ってつい突っ込み入れてまうでかい張型売っとるよな。長命丸はそこの看板商品。何でも飲むと射精が遅れて水を飲むとイくっちゅう代物や。なになに?三越太夫ってそんなん必要な程具合がええの?」
「心の友よ、ありがとう。だが、それ以上深入りするなら松坂屋さんに密告するぞ」
「なんで~な!松坂屋さん関係あらへんやん!」
意中の人の名を出すと、大丸はぶー垂れながらもすごすごと引き下がる。
 あの侍は「三越は具合がいいからこれでも飲んでせいぜい頑張れ」と自分を揶揄していたのか。
三越のことを知りつくす男に激しい嫉妬を覚えるが、何故三越が長命丸の効用を教えるの嫌がったのかがわからない。
「まあとりあえず、家帰って謝ったらええんちゃう?まあ、三越太夫が家におうたら、の話やけど」
 大丸の一言に、ざっと血の気が引く。
 俺の馬鹿!何であんな風に言われて三越さんが怒らずに家にいると思ったんだろう。怒って出て行ってもおかしくないのに!
「大丸、またな!」
 伊勢丹は着物を引っ掛け急いで家へと駆けだした。

更新日:2016-01-03 13:08:42

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