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初めての床入り

「伊勢丹、どうした?」
 布団の上に三越さんが浴衣一枚で座っている。湯屋に行ったばかりのせいか、膝に乗せられる三越さんの手がしっとり吸いついてくるようだ。
「……私とするのは嫌になったか?」
「とんでもない!」
 乗せられた三越さんの手をぎゅっと握る。
「だってお前、さっきから私の事を見ないじゃないか」
 顔を上げると、三越が少し困ったような笑顔でさっと髪を掻き上げる。白い額と、袖の降りた右腕に緋色の細い線が真一文字に浮かんでいる。美しいが、痛々しくも見える。以前会った時には気づかなかったが……。
「年明け間際にひと騒動あってね。こんな傷をこさえてしまった。折角伊勢丹、お前が綺麗だって褒めてくれてたのにね。よく見りゃ年増だし、加えて傷ものになったから嫌になったんじゃないのかい?だけどお前は優しいから、わざわざ自分のとこ押し掛けてきた男を足蹴にもできずに困ってるんだろう?そうならそうと言っておくれ。あんな大勢の前で求婚しといて、今更こんな事言っても信じないかもしれないが、私はお前を困らせたいわけじゃないんだ」
「そんなんじゃないんだ!」
 三越の勘違いに、慌てたのは伊勢丹の方だ。周囲に阿呆呼ばわりされても諦めきれず、待って待って待ち続けた相手に今更踵を返されてはたまらない。
「三越さんが好き過ぎて、ここにいるのが夢みたいで目を合わせるのが恥ずかしかっただけです。それに…」
「それに?」
「……俺、初めてだから三越さんの客みてえに上手くできないかもしれない……」
 そう、今夜一番の難題はそこだった。夢の中で何度も出てきた光景は、三越さんの容姿にぽうっとなり、気持ちいいって思っているうちに目が覚めるのだ。目が覚めて、こっそり褌を洗う恥ずかしさったら…。自分が気持ち良くなる想像はしても、相手を気持ち良くさせてる場面は夢では一度だって出てきやしないのだ。こんな初心者丸出しで、百戦錬磨の三越に愛想を尽かされたらどうしよう、とひやひやしていたのである。
「あははははははっ、なんだ、そんなことか」
「そんな笑わなくても…」
「笑うくらいいいだろう?てっきり、他人の手垢がついた男を抱くのは御免だとお前が思っているんじゃないかと、こっちは怯えていたんだぞ」
「そんな風に思うわけない」
「伊勢丹、客と同じでなくていいんだよ。むしろ違う方がいい。私だって好いた男とするのは初めてだ。こんなの俺が想像してた三越じゃない、そう思っても嫌わないでくれるかい?」
「嫌ったりできるもんですか。それができるなら、俺は三年働いた給金握りしめて三越さんに会いに行ったりしてないよ」
「そうだったな」
 三越は至極嬉しそうな笑みを浮かべて伊勢丹の口を吸う。
「伊勢丹、お前と一つになる準備をしてもいいか?」
「準備?」
 三越は袂から貝殻でできた容器を取り出し、蓋をあけた。中には白い粉が詰まっている。
「これは通和散。水や唾液、吐き出した精などで練って使うんだ」
 そう言って三越はそばにあった水差しの水をひと垂らし、ふた垂らしし、人差し指で練っていく。粉は水を含み、どろりと粘性を持った糊のようなものに変化する。
「菊門は勝手に濡れたりしないからね。そのまま挿れると傷つくし、挿入した方もきつすぎては具合が悪い。男がまぐわうにはこれが必要なんだ」
 そう言って三越は浴衣の裾を捲ると、伊勢丹に向かって大きく足を広げた。人並みの大きさの男性器のその奥に、綺麗な菊門がのぞく。
「ここにお前のを挿れるんだよ」
 三越はたっぷりと指に纏った通和散を菊門にあてがうと、ゆっくり馴染ませるようにさする。そして馴染んだ頃合いを見計らって人差し指と中指をそっと押しこんだ。
「すぐに準備が終わるから…んっ…もう少しだけ待ってて…」
 頬を上気させ、荒く息を吐きながら三越は何度もそこに通和散を塗り込める。くちゅり、くちゅりと水音がし、出し入れすると縁から通和散がとろり、と零れ布団を濡らす。
 ただ自分を受け入れる準備をしているだけというが、三越の扇情的な姿に下半身は痛いくらいに張り詰め、頭がくらくらしてくる。
「用意でき……って伊勢丹、大丈夫か?」
 たらり、と鼻血を出した伊勢丹に、三越は慌てて傍の水桶で手を洗い、拭う。そして伊勢丹をそっと寝かせる。

更新日:2016-01-03 13:06:30

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