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第9話

それからどれだけの時間が経ったのか…。

よく分からない位黙っていたような気がした。

それだけ、サトシの居ない事の…喪失感が…悲しみが大きかった。

考えてなど居なかったのだ。

いつものように笑い合えると信じていた。

いつものように無茶を咎めて、苦笑するサトシの姿を見れるのだと…思っていた。

何故…こうなったのか。

行動したのはセレナだった。

初恋の相手を失うと言うショックを抱えつつ彼女は、睨み付けるように見ていたのは…彼女達を案内してきたミーナと呼ばれる少女の方。

ミーナも哀しげな表情をしていた。

「…貴方が…あなたのお姉さんがサトシに詩を教えなかったらサトシは死なずに済んだのよ!あなたのせいよ!サトシを返してよ!!」

と、セレナはミーナに叫ぶように言う。

「…ごめんなさい」

とミーナは頭を下げる。

「謝って済むの?サトシはもう帰ってこないのに」

とセレナは怒りをぶつけるように言う。

今のセレナには、ミーナは…精霊達は想い人を奪った相手にしか見えていなかった。

八つ当たりなのだが、仕方のない事かもしれない。

「…セレナちゃん、怒ったって仕方無いわよ。サトシが望んだ事なんだもの。私達も受け入れて前に進まなきゃ…」

誰もが声を掛けられなかった中で声をかけたのは、大事な息子を失った筈の…サトシの母ハナコだった。

いつかはこうなると…ハナコは薄々気付いていた。

更新日:2019-10-02 23:55:56

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