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no title

 夜に激しい雨が降っていた。大きな雨音はブツブツと屋根を打っていた。私は浅い眠りの中でしばらくこのブツブツという音を聞いていた。私の意識はこの雨音の奥のほうに深い闇を感じつつ半分夢を見ていた。私の意識は深い闇の中にあって、私の見ていたのは人間の恐ろしい行いについての夢だった。人間がおよそ歴史の中で行ってきた狂気じみた夢。人間が人間を生きたまま八つ裂きにする夢だった。切り裂かれた方の人間は苦痛に耐えながら、ただただ早く死ぬことを望むのだった。なぜこの人はそのような明けない朝を待つような人生に至ってしまったのか?そのような狂気が果たしてこの世の中にあったのだろうか?私は人間の狂気が現実のなかに存在したのだという恐ろしい認識を持ったままようやくこの恐ろしい夢から醒めた。現実ではなかった。私はホッとした。しかし、それはありうべきことなのだ。私は少し落胆した。人間というものは恐ろしい。
私は絶望的な気分のまま再び眠りについた。

夜に降った雨は朝には止んでいた。風のない穏やかな雨上がりの朝日が雨粒を蓄えた草木を綺麗に照らしていた。雨上がりの湿度が高い空気は太陽の陽射しに温められ万物が静けさのなかで佇んでいるような印象を私は持った。

私は朝飯のあとに子供を連れて車で近くの河川敷に散歩に出掛けた。私は車を走らせている間、車の窓を開けてこの湿度の高い暖かな空気を空間に取り入れた。
河川敷に面した道に差し掛かかったときに子供が「あっ」と声を上げた。声を聞く一瞬、私もある光景を発見していた。それは、カラスがハトを咥えている光景だった。カラスは死んだハトの喉を持って地面に降り立ったところだった。ハトは無惨に弛緩した格好で咥えられていた。カラスはハトの死骸を地面に下ろし、ハトは地面に横たわった。
娘は黙ったまま、その光景を眺めていた。私は、そのまま車を走らせて広い駐車スペースに車を停めた。

更新日:2015-12-01 21:33:27

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