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九月の雨 後日譚



昨年はH君のお墓参りに行けませんでしたが、
今年は、約束どおり行って来ました。

今年の9月8日はちょうど仕事が休みの日で、
午前中にH君の眠る墓地を目指すことにしました。

墓地は、今私が住んでいる家から車で20分くらい
行った先の農村地帯にあるのです。

しかし、今年もまた、雨でした。

ちょうど台風18号が接近していたせいもあり、
道中ずっと強い雨が降っていました。

私は、出たついでに墓地近くのスーパーに寄ること
にしました。

お供えの缶コーヒーは、いつも道すがら墓地近くの
自販機で買ったものですが、今年はそのスーパーで
買うことにしました。

さて、スーパーを出てみると、雨は小雨に変わって
いました。

「今年は、ちゃんと墓参りができそうだな…」

私は、そう思いながら墓地に向かいました。

H君の眠る墓地は国道から脇道に入ってすぐの場所
にありました。

しかし、着いてみると、いつもは空いている村道に
たくさんの軽トラが路駐されています。

私の脳裏に、ふっと昔の記憶が蘇ってきました。

「あっ、そういえば、この日(9月8日)お昼近くに
来ると、いつも農家の人たちが何かしら集会をやって
たんだっけな…」

墓地のすぐ隣には小さな自治会館があり、その敷地内
にも何台か軽トラが停められていました。

内心「しまった…、時間帯がまずかったな…」と思い
つつ、せっかく小雨になったことだし、また、往復小
一時間の道のりを出直すわけにもいくまいと、
私は墓地入口の路地に車を停めてH君のお墓に向かっ
て歩き出しました。

墓地入口からお墓までは歩いてほんの数十秒ですが、
私は、あれっ?と思いました。

「たしか、このあたりだったはずだが…」

H君のお墓あたりは荒れていました…。

雑草こそ刈られていましたが、いくつか並んだ墓石
の表面はどれも白い粉をふいたようになって、
かろうじて苗字は読めるものの、名前は判別できなく
なっています。

それに、以前墓石があった場所とはほんの少し位置
が変わっているような気がしたのです。

ここ数年H君のお墓には来ていなかったこともあり、
もしかしたら、先般の大震災の強烈な揺れで墓石が
倒れたのかもしれない…と思いました。

ただ、墓石の裏側に、(昭和58年建立)と彫って
あるお墓があり、年号からしてそれがH君のお墓だろ
うと思い、しゃがんで合掌することにしました。

しかし、そうこうするうち、すぐそばの自治会館から
ざわざわと人いきれがしてきました。

どうも、お昼間際で集会は終わったらしく十数人の
年輩者たちが自治会館から出てきたところでした。

中には、私のいる方をじっと見ている人もいます。

「こりゃ、ぐずぐずしてもいられないな…」

かつては、薮蚊を気にしながらも、しばらくはH君
のお墓のそばに佇んでいたものですが、
今回は車2台が交せないくらい狭い路地に車を停め
ていたこともあって、そう思ったのです。

私は、早々H君に別れを告げ、車まで戻りました。

よくよく見ると、自治会館から出てきた一台の軽トラ
が、私の車が移動するのを待っているようでした。

ただ、私が墓地にいたせいかその軽トラも特に私を
急かすこともなく、ただじっと待っているようでした。

「また、来年な…」

ゆっくりと走り出してからルームミラーを見ると、
待っていた軽トラも動き出しました。

「なあ、お互い様だよな…」

私は、
特にハザードを点滅させることもなかろう…と、
そのまま旧友の墓を後にしました。

               (本文おわり)                                        

更新日:2015-11-29 18:01:45

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