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第1話 : 1ヶ月前

暴力的な程だった真夏の日差しが、ようやく和らぎつつある、9月。
ソウル市内某所。
今、1人の青年が、目的を持った足取りで歩を進めている。
年の頃は20代後半か。程良く鍛えられた体つきをした、なかなかの美青年である。
彼は、とあるビルの1階に位置するカフェに入って行くと、席に座り、チラリと腕時計に目を遣った。
程なくして、同じような年恰好の青年がカフェに…こちらは表のドアからではなく地下の録音スタジオに通じる階段を駆け上って入って行くと、待っていた青年に「サンウ!」と呼びかけ、向かいの席に腰を下ろした。
「サンウ、悪いな。休暇中だろう?」
「俺がジュンスに会いたかったから。そっちこそ、今アルバムのレコーディング中だろう?」
「まあね」

ジュンスと呼ばれた青年…この国のトップアイドルの1人…は、ウェイトレスを呼び止めると、「オレンジジュース2つ」と注文した。
「ごめん、サンウの分も勝手に注文しちゃった」
「いいよ。奢ってくれるんだろう?俺、今軍人だからお金ないし」

ジュンスが主演を務めたミュージカルに、友人役としてサンウが主演したのが3年前。以来2人は友人関係にある。
今日は、現在兵役中のサンウが休暇を利用してジュンスに会いに来たという格好だった。

「でもサンウも除隊まで3ヶ月?4ヶ月?今は兵長だよね?」
「そう。兵長様。大きい仕事は来月の陸軍フェスティバルが最後かな?」
「陸軍フェスティバル!ジェジュンヒョンがそれに出るんだよ。サンウも?」
「と言うか、俺がその陸フェスの企画責任者」
「あ…じゃあ…。兵長、うちのジェジュンヒョンをよろしくお願いします」
思いがけず友人が、自分の所属グループのこれまた現在兵役中の最年長メンバーの上司と知り、ジュンスは急に改まってサンウに頭を下げた。

ところで、「所属グループ」とあっさり書いたが、ジュンスやジェジュンは元々は5人グループの…この辺の事情はこの小説を読んでくださっている方は御存知だろうから、省略しよう。
実はサンウがジュンスに会いに行ったのは、その「事情」のためでもあった。

「ところで君達は…5人は今は会ったりする事はあるの?」
サンウがジュンスにそう聞いたのは、いささか唐突だったが、ジュンスはそれには気付いていないようで、
「ああ、それは…たまに聞かれるんだけど、ノーコメント」
「ふーん。じゃあ…個人的には…例えばジェジュンさんとユノさんは?」
「ユノヒョン?」
「…今でもユノヒョンって言うんだ」
「…ユノヒョンはユノヒョンだよ」
「なるほど」
「でも、なんで?」
「いや、ジェジュンさんとユノさんは、離れているのが不自然に思えてさ」
「…不自然なのは、あの2人だけじゃないんだけどね」
「なるほど」

(なるほど)
と、サンウは心の中でもう一度呟いた。

(…大丈夫なんじゃないかな?これは…)

更新日:2015-10-27 21:48:01

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