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3日前

「今日も行くのか?港。」
「ううん。いかないよ。」
「ん?なぜだ?」
「3日前だから。乗艦の準備始めないと。」
「そっか…。後3日か…。」
「足は間に合いそうにないね…。杖ついたまま乗艦か…。ちょっと嫌だな。」
「見てくれなんてどうでもいい。転んでまた骨折したらどうする?」
「そうだね…。格納庫まで行くのが大変だな。慣性制御されてるからね。第2格納庫以外は。」
「あんなに慣性制御されていないのが嫌だと言ってたクセに、今は制御無しがいいか?」
「杖つかなくても動けるからね。」
「調子いいヤツだな。」
「人間なんて、そんなもんだよ…。」
「もう…平気なのか?」
「何が?」
「あけの海基地のこと。」
「ホント言うと…まだ気持ちの整理できてない…。まだ信じられないし、信じたくない。」
「明…。」
「大丈夫だよ?和男、僕なら…。」
「あまり無理するな…。」
「ん…。ありがと…。」
「また旅立ってしまうんだな…。」
「今回は訓練航海だから、直ぐ戻るよ。」
「あぁ、待ってる。」
「和男?」
「行かせたくない、本当は。」
「知ってた。でも、佐渡先生にお願いしてくれたんだよね。」
「行かせたくないがと前置きしてな。お願いしたよ。参加させて欲しいと。」
「ありがと…。」
「ヤマトが好きか?」
「うん。」
「白色彗星戦で重症を負ったのに?」
「もう治ってきてるでしょ?」
「またケガをするかもしれない。」
「仕方ないさ。戦争だもん。でも、今回は訓練航海だから。大丈夫だよ。ね?」
「心配でたまらない。」
「和男…。」
「俺を置いて…行ってしまうのか…?」
「僕は…ヤマトの戦士の1人だから。行くよ…。」
「明…。」
明を抱きしめる菊田。
「和男…。」
「お前は俺の宝物なんだよ…。俺の紫の上で、愛しい妻だ…。」
「うん…。」
「手元に置いておきたかった…。」
「でも、そうはしなかった。」
「パイロットが飛べなくなったら生きる屍だからな。俺のようにはさせたくなかった。」
「ありがとう…。」
「愛してる、明。俺の愛しい人。」
「僕も。和男のこと、愛してるよ。」
「明…。」
菊田は明を抱きしめ、頬ずりをした。
「か、和男。ヒゲがチクチクする…。」
「まだ剃ってないからな…。」
「今日は家で待ってるよ。和男の帰り。夕食の支度してね。」
「明の手料理を食べられるのも、後3日か…。」
「帰って来たら、また作るから。」
「無事の帰還を待ってるいるよ…。」

更新日:2015-11-08 20:33:35

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旅立ちまでの一瞬(ひととき)