「ちょっと？」
「姫さんに子守をお願いしたいんだよ。」
「子守ねぇ。ま、航空部部長が言うなら聞かなきゃダメだろうね。」
「悪いな。」
菊田は明から少し離れて、姫川に事情を話した。
「なるほどね…。それで落ち込んでいるのか、お嬢は。」
「理由はわからないが、姫さんのとこ行くって言うもんでね。姫さんなら答えをくれると思っているのかもしれない。」
「俺にだって出せないなぁ。」
「話相手になってやってくれないか？本当なら俺が相手をすればいいんだろうが、仕事が山積みでね。明に時間を割いてやれない。」
「了解したよ。俺で相手が務まるかは、さて置いてね。」
「悪いな、姫さん。」
「なぁに。今はヤマトのコスモタイガーのテスト飛行に場を貸していて暇だからな。構わないよ。」
「助かる。あ、明のヤツ、テスト飛行は見ないって言ってたから、そのへんも宜しく！」
「了解。航空部部長ともなると大変だねぇ、菊田さん。まさか、アンタが７４３部隊を辞めて本部に行くとは思わなかったよ。」
「明が…いなくなってしまったからな…。腑抜け野郎になったんだよ、俺は。」
「そんなに惚れていたなら、なぜ出雲計画に？」
「長谷川の二の舞は踏みたくなかった。」
「お嬢は長谷川とはちがいますぜ？」
「わかってたさ。でも、３４３空挺団の速水にも言われてね。明を出雲計画に出せと。過ちを繰り返すなって。」
「それで出したのか。お嬢を。全く…。惚れていたなら、周りが何を言おうが、傍に置いておくもんでしょうが。菊田さん。」
「そうだな…。判断を誤ったよ。」
「時間、大丈夫なんですかい？」
「ヤバイ！悪いな。明を宜しく！」
「菊田さんも、まだまだだね。さてと…。」
ボーッ立っている、明に近づく姫川。
「お嬢、立ってるの辛いだろ？俺の部屋にでも行こうか？」
「はい…。」

「菊田さんから聞いたよ。あけの海基地、全滅だったんだってな。」
「…。」
「あそこは…確か早坂がいたっけ…。」
「早坂部隊長をご存知なんですか？」
「若い頃、同じ部隊にいたことがあるよ。いつも温厚そうな顔をしていたな。」
「優しい方でした…。いつも僕に気を配ってくれた…。」
「早坂らしいな。」
「僕が…菊田部長の愛人とか体で誑し込んだとか噂されたときも…気にするなって…。噂なんか僕の実力を見れば直ぐに消えるって…言ってくれました…。」
「早坂に可愛がられてたんだな、お嬢は。」
「くっ…。」
目に涙を浮かべる明。