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6日前

「ん…んっ…。」
「明、目が覚めたか?」
「左目…見えない…。」
「眼帯をしているからな。」
「眼帯?何で?」
「お前の緋眼は幻覚を見てしまうからだよ。」
「幻覚?」
「今、何か見えるか?」
「別に…。」
「眼帯で封印してるんだよ。お前の不思議な力を。幻覚が見えてしまうのをな。」
「不思議な力…?」
「あけの海基地が砲撃を受けて壊滅する姿が、お前の緋眼には見えてしまう。」
「あ…。」
「お前はそれを見て錯乱し、気を失った。で、お前をよく知る医者に往診に来てもらい、緋眼を眼帯で覆うのが対処療法という結論になったわけ。」
「外したら…また見えるってこと?」
「お前が、あけの海基地の皆が死んだ事実を受け入れることができなければ、幻覚を見続けるだろうと言ってたよ。医者が。」
「信じられないもん!嘘だっ!そんなの!」
「明…。」
「信じないっ!絶対に!」
「あけの海基地は全滅したんだよ。早坂も…お前の部下も、皆死んだ。」
「嘘っ!和男の嘘つきっ!」
「明…。そんな状態じゃ、ヤマトには乗艦できんぞ?」
「乗る…。」
「無理だ。事実を受け止め、緋眼に映る幻覚が消えなければ、乗艦は認められない。」
「皆に会わせてよ!早坂さんや真鍋達はどこにいるの?」
「明!」
「晴れの海基地の隊員はヤマトに乗艦してるじゃないかっ!」
「あけの海基地の隊員は、皆死んだからだよ。」
「嘘だっ!僕は信じないからねっ!」
「明…。」
「こんなものっ!」
明は眼帯を外した。
「明!やめろっ!」
「あっ…。早坂…部隊長…、真鍋…、長沢…、桜井…、谷口…、横田…。」
(熱い…、苦しい…、隊長…助けて…。)
(山本…熱い…、苦しい…。)
(隊長…熱いっス…、苦しいっス…、痛いっス…。助けて…。山本隊長…。)
「真鍋っ!」
(助けて…、助けて…、山本隊長…。)
「皆!うわぁーっ!」
「明!」
「皆!皆!逃げて!早く!」
「くそっ!」
菊田は明を押さえつけ、緋眼に眼帯を付けた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…。」
「明!緋眼を瞑れ!」
「う…。」
「消えたか?」
「ん…。」
涙を零す明。
「皆…死んだんだよ…。」
「僕に…助けを…求めて…きた…。」
「それは幻覚だ。」
「熱いって…。苦しいって…。」
「そして死んだんだよ…。」
「信じたくない…。」
明は携帯を取り出すと、早坂の番号にかけた。
『おかけになった番号は、現在使われておりません。』
「早坂部隊長。出て…。」

更新日:2015-10-28 00:59:36

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旅立ちまでの一瞬(ひととき)