• 8 / 504 ページ
それでも彼女はすぐに我に返ったようで、
リビングには新一の姿しか見えないのを確認すると……

「あら? 博士はいないのね。また出直してくるわ」

と、彼女は踵を返してリビングから出て行こうとする。

「おい! ちょっと待てよ!」

新一は慌てて彼女を大きな声で呼び止めた。
彼女も新一の声に足を止める。

「博士なら地下室にいるぜ」
「そう、でもいいわ……また来るから」

再び玄関の方に向かって帰ろうとするので、新一が少し声を荒げる。

「オメー、ちょっと待てったら! 博士に用があって来たんだろう。
俺ならすぐ帰るから、ここで待ってろよ」

新一の言葉に彼女は露骨にため息をつくと、
仕方なさそうにリビングのソファまで歩いてくる。
一瞬だけ逡巡した後、新一の向かいのソファに腰を下ろした。

新一は不躾なほどまじまじと彼女を見つめている。
彼女の方は新一と目を合せたくないのか、リビングから庭へと視線を移す。

(理工の連中が騒ぐだけあって美人は美人だな、性格は悪そうだが……)

「オメー、この間、東都大学で会ったよな?
俺は工藤新一、東都大の法学部一年だよ。オメーも同じ大学だろう。
お前、名前は?」

新一の声にようやく彼女が新一と向き合うと、ジロリと睨んだ。

「なんだよ、名前を聞いてるだけだぜ? そんなに睨むことねーだろう」

「私は……宮野志保よ。理工学部の一年よ」

「オメー、俺とどこかで会ったことあるの?
あの時、確かに、俺のこと工藤って呼んだよな」

「会ったことなんかないわ。貴方、探偵をやってるんでしょ?
大学でも結構有名だからよ。新聞で見た覚えがあっただけよ」

彼女の言うように新一は高校時代には高校生探偵として何度もマスコミに取り上げられていた。

東都大学でも新一が学生ながら探偵をやっていることは広く知られている。

「ふーん、そうか……オメー、なんで阿笠博士と知り合いなんだ?」

博士にこんなに若くて美人の知り合いがいれば、自分に自慢しているはずだ。
しかも、彼女は新一と同じようにベルも鳴らさずに玄関のドアを開けて、
博士とはかなり親しげな様子でこの家に入ってきた。

けれども、博士から美人の女子学生の話など聞いたことがない。

(いったい、こいつ、阿笠博士とどういう関係なんだろう。
まさか博士の恋人か? いや、隠し子か……。
まあ、どちらもありえねーな、あはははっ)

彼女が再び新一をジロッと睨む。

「私が阿笠博士と知り合いだったらおかしいかしら?
それに、見ず知らずの貴方に博士との関係を話すつもりはないわ」

「いや、まあ、俺には関係ねーことだけど……」

彼女はそう言うとまたプイッと庭の方に顔を向けてしまった。

(ったく、なんだよ、なに怒ってるんだよ。
こいつ、愛想の欠片もねーのかよ。なんか話しにくい子だな)

更新日:2018-03-02 19:15:23

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

Someday ~ 忘れないで 【コナンで新一×志保】