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秋晴れの穏やかな日差しが少し陰り始めた午後、
『工藤君、密室殺人だ。協力してくれないか?』との警視庁の目暮警部からの呼び出しに、
新一は大学の図書館前を事件現場へと先を急ぐように歩いていた。

ところが、突然、建物の影から現れた人物とぶつかってしまう。
直前まで携帯で話していたせいで気づかなかった。

「キャッ!?」と小さな悲鳴が聞こえる。

「あっ、ごめん! 急いでたんで……わりぃ!」

ぶつかった相手は女だった。
彼女の手からバサリと数冊のテキストが地面に落ちる。

新一は慌てて本を拾って束ねると、衝突した女性に手渡そうとする。

「はい、これ……」

けれども、目の前の女性は少しも動こうとはしない。
驚いた顔で新一に視線を向けている。

(おっと、綺麗な子だなぁ。初めて会うけど、上級生かな?)

「……工藤くん」

「えっ!?」

不意に美女の口から飛び出した自分の名前に新一の目がわずかに見開く。
新一には全く見覚えがない女だ。

「あれ? 君、俺を知ってるの?」

「知らないわ。貴方、急いでるんでしょう。さっさと行ったら?」

(おい、なんだよ、せっかく綺麗な顔してんのに……。
ずい分ときつい言い方する子だな。
ああ、そうか……この子が例の東都のマドンナか?)

新一が拾った本は理化学系のテキストだった。

確かに、目の前の美女は坂本たちの会話にあった通り。
黙っていても目立つ容姿に外国の血が混じったような肌の白さ、
目鼻立ちは綺麗に整っていて、瞳は珍しい翡翠色をしていた。

新一の視線もいつのまにか彼女に引き寄せられている。
見つめ合ったまま静かに時間が流れていく。

「はっ」と先に彼女の方が我に返った。

「どうもありがとう」と彼女は新一の手からテキストの束を奪い取ると、
そのまま横を通り過ぎようとする。
なぜかプイっと顔をそむけながら。

(おいおい、なんで初対面で怒ってるんだよ! いくら美人でも可愛くねー女だな)

「やべぇ、俺、急いでるんだった」

彼女の態度に少しだけ違和感を覚えながらも新一も事件現場へと急いだ。

そう、東都のマドンナと呼ばれていた女性は江戸川コナンの相棒──
あの灰原哀だった。
今は宮野志保の姿に戻っている。

しかし、新一は覚えていなかった。

工藤新一は江戸川コナンとして過ごした一年と数か月の記憶をすべて失っていたのだ。

更新日:2018-03-02 19:07:54

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Someday ~ 忘れないで 【コナンで新一×志保】