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une autre couleur

目の前で、家々が燃えている。
何処かで見たような光景だと思ったが、思い出せはしなかった。

などと余計なことを考えている場合でもないが。
とはいえ、人々はバケツを手に、悠々と消火活動に勤しんでいる。要は、その程度の小火だ。
やや億劫に感じながら、差し上げた手を振り下ろす。
途端に炎は搔き消え、巻き上がった煤は焦げた箇所へ絡みつき、一帯は焼かれる前の状態に回復する。

ーーまぁ、ただ火を消すだけじゃ、【火の魔女】の名折れだからな。

呆気に取られたように、人々は振り返り、私を見て何やら言葉を失ったようだった。
いや…その声が、私の耳に届かないのか…?

どうなっている?

1人の女が、困ったように一方を指した。
その言わんとすることは、すぐに理解した。

「恩に着る!」

礼もそこそこに、私は指された方へと駆け出した。

更新日:2023-04-01 00:25:37

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