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暫くして、湧き水のある岩場へと出た。
岩場の下は草地になっており、見晴らしも良い。
昼食にはちょうど良い場所だ。
シアンは水の湧くところが見たいと言い、オルスが岩の上へと連れて行く。リュークはそのすぐ下に控える…他人のことは言えないが、結構な叔父馬鹿ぶりだ。
私はレイチェルと共に草地へ降り、場所を整える。
「お加減はいかがですか?ご迷惑かも知れないと思ったんですが…」
軽食の入ったバスケットを運びおろす私に、レイチェルが気遣わしげに尋ねた。
…ティファンを宿していながらも、レイチェルはやはりレイチェルだった。ティファンにはなかった思慮深さが、彼女にはある。だが、いつだって誰かの喜びを望んでいた、そういうところにティファンの面影を感じざるを得ない。
レイチェルが、風に煽られた金の髪を押さえる…姿さえも変わったが、それでも…
私は、あの頃望んだ平穏の先を、生きているんだな。
「ああ…もう、大分良いんだ。辛ければ断るから、気にするな」
「…はい」
私の口ぶりに、何か納得したらしく、レイチェルは微笑んで頷く。
そう言えば、レイチェルと2人きりになるのは、本当に久しぶりだ。そもそも、そんな機会はあまりあった気がしないようにも思うが…
改めて向き合うと、何を話したものか、少々迷う。
「何だ…その…城で不都合なことはないか?何かあれば、遠慮なく言え…私で力になれるなら…な」
「いいえ!皆さん良くしてくださいますし、不都合なんて…そんな…」
レイチェルは、いつか聞いたような返事をしてきた…出会った頃にも、似たような会話をした覚えがある。変わらないな…いや、初対面の頃のような質問をした私が悪いのか。
とは言うものの、今日のレイチェルは、城での装いとは違い、大分質素な…出会った頃と同じような服装をしている。城や城下町では、次期領主の母と見られる為に、それらしい振る舞いを心掛けているようだが…私にとって「城が狭い」と言った彼女自身も、多少窮屈に感じる部分はあるのだろう。最低限の心掛けにも苦心する私の言えた義理ではないが。
こうして出かけることで息抜きになるなら、時々は良いかも知れない。まぁ、そんな気遣いはオルスがとっくにしている事だろうが。
レイチェルは何やら口籠る…何度か言葉を選ぶ素振りを見せた後、思い切ったように口を開いた。
「あの…ナルシア様がよかったら、ですけど…お話を、聞かせてくださると嬉しいです」
思わず、返事に困ってしまう。私にできる話は、レイチェルの心配に輪をかけるようなものばかりだ。あぁ…どうしても、上手く噛み合わないものだ…。
シアンの笑い声が聞こえ、自然とそちらへ目が向く。岩場から見える遠景を楽しんでいるようだった。
レイチェルが、言葉を継いだ。
「シアンは、ナルシア様にお話をねだるでしょう?あの子の好きな話…騎士様のお話が、ありますよね」
「ああ…そんな話もしたかな」
少々ドキリとしつつ、とぼけて先を促す。
「そのお話をなさっている時、ナルシア様がとても嬉しそうで、ずっと聞いていたくなるって…あの子、そう言うんです。それで…私も…って」
ああ…そういうことか。レイチェルは、羨ましくなったのか…そんな風に思ってもらえるとは、どうにも気恥ずかしいが…
しかしシアンのやつ…そんな理由があったとは。私には、そんなこと1度も言ったことがないのに。
何を、どう言って良いのかわからない程に。込み上げるこの気持ちを、何と呼ぼうか。
「何の話をしようか…帰ったら、だがな」
存分に水遊びを楽しんだらしいシアンと、水を汲んだオルスが降りてくる。
…今日は思い切り息抜きができそうだ。
岩場の下は草地になっており、見晴らしも良い。
昼食にはちょうど良い場所だ。
シアンは水の湧くところが見たいと言い、オルスが岩の上へと連れて行く。リュークはそのすぐ下に控える…他人のことは言えないが、結構な叔父馬鹿ぶりだ。
私はレイチェルと共に草地へ降り、場所を整える。
「お加減はいかがですか?ご迷惑かも知れないと思ったんですが…」
軽食の入ったバスケットを運びおろす私に、レイチェルが気遣わしげに尋ねた。
…ティファンを宿していながらも、レイチェルはやはりレイチェルだった。ティファンにはなかった思慮深さが、彼女にはある。だが、いつだって誰かの喜びを望んでいた、そういうところにティファンの面影を感じざるを得ない。
レイチェルが、風に煽られた金の髪を押さえる…姿さえも変わったが、それでも…
私は、あの頃望んだ平穏の先を、生きているんだな。
「ああ…もう、大分良いんだ。辛ければ断るから、気にするな」
「…はい」
私の口ぶりに、何か納得したらしく、レイチェルは微笑んで頷く。
そう言えば、レイチェルと2人きりになるのは、本当に久しぶりだ。そもそも、そんな機会はあまりあった気がしないようにも思うが…
改めて向き合うと、何を話したものか、少々迷う。
「何だ…その…城で不都合なことはないか?何かあれば、遠慮なく言え…私で力になれるなら…な」
「いいえ!皆さん良くしてくださいますし、不都合なんて…そんな…」
レイチェルは、いつか聞いたような返事をしてきた…出会った頃にも、似たような会話をした覚えがある。変わらないな…いや、初対面の頃のような質問をした私が悪いのか。
とは言うものの、今日のレイチェルは、城での装いとは違い、大分質素な…出会った頃と同じような服装をしている。城や城下町では、次期領主の母と見られる為に、それらしい振る舞いを心掛けているようだが…私にとって「城が狭い」と言った彼女自身も、多少窮屈に感じる部分はあるのだろう。最低限の心掛けにも苦心する私の言えた義理ではないが。
こうして出かけることで息抜きになるなら、時々は良いかも知れない。まぁ、そんな気遣いはオルスがとっくにしている事だろうが。
レイチェルは何やら口籠る…何度か言葉を選ぶ素振りを見せた後、思い切ったように口を開いた。
「あの…ナルシア様がよかったら、ですけど…お話を、聞かせてくださると嬉しいです」
思わず、返事に困ってしまう。私にできる話は、レイチェルの心配に輪をかけるようなものばかりだ。あぁ…どうしても、上手く噛み合わないものだ…。
シアンの笑い声が聞こえ、自然とそちらへ目が向く。岩場から見える遠景を楽しんでいるようだった。
レイチェルが、言葉を継いだ。
「シアンは、ナルシア様にお話をねだるでしょう?あの子の好きな話…騎士様のお話が、ありますよね」
「ああ…そんな話もしたかな」
少々ドキリとしつつ、とぼけて先を促す。
「そのお話をなさっている時、ナルシア様がとても嬉しそうで、ずっと聞いていたくなるって…あの子、そう言うんです。それで…私も…って」
ああ…そういうことか。レイチェルは、羨ましくなったのか…そんな風に思ってもらえるとは、どうにも気恥ずかしいが…
しかしシアンのやつ…そんな理由があったとは。私には、そんなこと1度も言ったことがないのに。
何を、どう言って良いのかわからない程に。込み上げるこの気持ちを、何と呼ぼうか。
「何の話をしようか…帰ったら、だがな」
存分に水遊びを楽しんだらしいシアンと、水を汲んだオルスが降りてくる。
…今日は思い切り息抜きができそうだ。
更新日:2022-11-12 20:59:41