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政宗の視界で、戸を閉め終えた小十郎が、鋭い笑みで振り返る。
 「来いよ……小十郎」
  薄暗さの増した室内を歩み来る小十郎の身体を、腕を広げ、政宗は自らの胸に招き入れる。
  包帯を巻く全身を、どこまでも繊細な小十郎の手にまさぐられ、内側の熱が燻るように燃える。
  しかし、それでもやはり『痛み』という存在が、ほんのひと握り、政宗の意識を強く縛りつけた。
  飼い慣らしたはずのその存在に、小十郎の方も当然、気がついているはずだ。
  『欲しい』のは互いに同じ。だが、政宗の存在を『奥州の宝』だと心得る小十郎が、その身を案じずにいられる筈がない。
  痛みと快感が混同する愛撫の中、政宗は残りわずかな理性でもって、小十郎の耳に直接問う。
 「小十郎……オマエ、どこまでやれる……」
  震えを帯びるその声に、小十郎の動きが、はたと止まった。
 「そうだな……納得させられぬまま離す訳にはいかねぇが……」
  首筋を這っていた小十郎の吐息が、再び政宗の唇へと舞い戻り、両頬を熱い手によって包まれる。
 「長丁場は無理だ。いいな?」
  諭すようにそう言い聞かされ、政宗は目前にある真摯な瞳へ向け、小さくコクリと頷いた。
   政宗の了承を受けるや、小十郎の顔に満足げな笑みが広がる。
  甘い口づけをひとつ落として、小十郎の熱が、そろり……と政宗の身体を下ってゆく。
  痛みと昂りにさらされ、淫妖に濡れる政宗の下芯に、小十郎の熱い息がかかった。
 「こうするのも……随分と久しぶりだな……」
  前置きのやわい刺激が、じき訪れる情景を脳裏へと呼び覚まし、政宗は、はっとする。
 「…待て!小十郎!………んあっ!!」
  熱い分身が小十郎の口に含まれ、政宗の身体が喜びに震えた。
  声をつまらせる政宗の熱を、舌を使い、ねっとりと愛撫する小十郎の動き。すべてを知り尽くした存在だからこそ、注ぐことが出来る濃厚な快感に、畳へと投げ出された政宗の両足が、強い力を宿した。
  爪を起て、深すぎる快楽をやり過ごす。普段、身体を重ねる折りも、政宗はけして、この行為を許さない。その理由は何か……。
  感じすぎる自分が浅ましい故
……。
  己だけが受けることに、一瞬心が肌寒さを覚える故……。
  口実は山ほどある。しかし、根本は、この濃厚な行為が甦らせる過去の自分だ……。
 「あぁ………うっ……んぁ」
  手のひらで全体を扱かれると同時に、舌先で先端を弄ばれ、政宗はひたすらに身悶える。
  己を悦楽へと誘う小十郎の髪に手を差し入れて、政宗は閉じた瞼に浮かぶ風景に奥歯を噛んだ。
  この地に生まれ落ちた瞬間から、自分は自分自身である前に、伊達の、奥州の、いのちだった。
  誰もが深く慈しむのは自らではなく『自らの存在』なのだと、頑なにそう思っていた[[rb:若 > あお]]すぎる自分を、この熱い愛と欲で解きほぐしてみせた男……。
  小十郎が生み出す愛撫が、若き日の自分を思い出させる。
  呼び起こされた羞恥が政宗の全身に広がり、その感度を増した。
「……んあっ……小十郎……もう…離せ……」
  絶頂の兆しに、襖に当てた背を大きく反らし、政宗は自身を翻弄する男へと命ずる。しかし……
 「ここまできて、何言ってやがる……」
  あっさりと聞き捨てられたうえ、それどころか、機が熟したことを悟った小十郎の手によって、頂きへの道を駆り立てられる。
 「いいぜ……イキな……」
  切なく震える熱塊を再び口内へと含まれ、政宗の腰が大きく跳ねる。
  ねっとりと下から上へと扱かれ、先端の窪みをひときわ強く吸われた、その瞬間、政宗の身を強烈な快感が駆け巡った。
 「あ………あぁぁー、!!」
  意識さえもを霞ませる濃厚な悦楽に、一瞬この身から痛みが消えた。
 全身を震わせ、愛液をあふれさせる政宗を、小十郎が難なく受け止め、しっかりとその身を支えた。
  力を抜き取られた全身に、またすぐに舞い戻ってくる痛み。政宗はぐったりとした身体を熱い胸にあずけ、荒い息だけを繰り返した。
 「ご納得、なされたか……?」
  速い鼓動を、ひたすらに自ら追っていた政宗の耳に、穏やかな声がとどく。
  今にも途切れてしまいそうな意識の中、閉じていた左眼をこじ開ければ、響きが伝えたそのままの笑みがそこにあった。
  問いのこたえは思案する必要もなく、政宗の中に息づいている。されど、それを伝えるだけの気力すら残らない現実に、政宗はかろうじて僅かに口角を上げてみせた。
  薄れゆく意識のはしで、自らの身体が、やさしく抱き上げられるのを知る。
  力強い腕にすべてを預け、手放した意識が完全に途切れる手前、小さな口づけが、そっと唇に落とされたことを、政宗は満ち足りた胸にしっかりと刻んだ。


ー 終 ー

更新日:2015-09-28 19:31:34

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失うということ 【戦国BASARA二次創作】