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壱
(オレは……また失うのか……?)
きしませる全身の痛みよりも、心の声が政宗の息を止めた。
不覚にも、一筋胸をよぎった可能性に顔をしかめた政宗へ、部下の声がかかる。
「すんません、筆頭……摺上原で六爪の残りひと振りを見つけられなくて……」
くもる部下たちの顔を横目にとらえ、政宗は小さな笑みと共に響きを吐き出した。
「No Problem. これだけありゃ上等だ」
今や我が者顔で天下に幅をきかせる豊臣。その豊臣により各地に敷かれた伏兵侵略によって、ここ奥州もまた激しい戦火の渦に呑み込まれた。
政宗により一度は平定された奥州の地。この地を今、再び統べ直した政宗の内に明確なものが見える。
この天下をけして豊臣に渡しはしない。そして……
「小十郎……」
開く障子の先には何者の姿もない。それと知った上で、政宗は戸を引き口からこぼれ出た人物の自室へと、そっ と足を踏み入れた。
冷えた空気の中にある見慣れすぎた空間が、政宗の中にある過去の記憶を呼び覚ましては消えてゆく。しかし……
右目を失った自分に、自ら右目となりその背を守ると吼えた男。その男の姿だけは、何度まばたきを繰り返してもなお、政宗の脳裏に焼きついたまま……。
いついかなる時も側にて仕え、時に政宗のあおさをいさめてきた片倉小十郎。彼の愛刀・黒龍が置かれた床の間の前に立ち、政宗は背を吹き去ってゆく風をあらためて強く感じた。
豊臣・軍師、竹中半兵衛によって引き裂かれた陣羽織。しかし、それは今政宗が感じている肌寒さの理由ではない。
「これが…オマエの言ってた、本当の喪失感か……」
真面目くさった小十郎の顔が、政宗の身を押し動かす。
抜き身をさらす黒龍を手に取り、その刀身に刻まれた誓願の文字を指でなぞる。
『梵天成天翔独眼竜』
形取られた深い意思。その想いの主が、ナゼ今この場にいないのか…。らしくもなく曇る心を振り払うように、政宗は手にした黒龍で瞬く様に光を描いた。
六の爪。その名の通り、六本目の鞘に黒龍を納め、政宗は今一度、豊臣により奪われた腹心の名を響きに乗せた。
きしませる全身の痛みよりも、心の声が政宗の息を止めた。
不覚にも、一筋胸をよぎった可能性に顔をしかめた政宗へ、部下の声がかかる。
「すんません、筆頭……摺上原で六爪の残りひと振りを見つけられなくて……」
くもる部下たちの顔を横目にとらえ、政宗は小さな笑みと共に響きを吐き出した。
「No Problem. これだけありゃ上等だ」
今や我が者顔で天下に幅をきかせる豊臣。その豊臣により各地に敷かれた伏兵侵略によって、ここ奥州もまた激しい戦火の渦に呑み込まれた。
政宗により一度は平定された奥州の地。この地を今、再び統べ直した政宗の内に明確なものが見える。
この天下をけして豊臣に渡しはしない。そして……
「小十郎……」
開く障子の先には何者の姿もない。それと知った上で、政宗は戸を引き口からこぼれ出た人物の自室へと、そっ と足を踏み入れた。
冷えた空気の中にある見慣れすぎた空間が、政宗の中にある過去の記憶を呼び覚ましては消えてゆく。しかし……
右目を失った自分に、自ら右目となりその背を守ると吼えた男。その男の姿だけは、何度まばたきを繰り返してもなお、政宗の脳裏に焼きついたまま……。
いついかなる時も側にて仕え、時に政宗のあおさをいさめてきた片倉小十郎。彼の愛刀・黒龍が置かれた床の間の前に立ち、政宗は背を吹き去ってゆく風をあらためて強く感じた。
豊臣・軍師、竹中半兵衛によって引き裂かれた陣羽織。しかし、それは今政宗が感じている肌寒さの理由ではない。
「これが…オマエの言ってた、本当の喪失感か……」
真面目くさった小十郎の顔が、政宗の身を押し動かす。
抜き身をさらす黒龍を手に取り、その刀身に刻まれた誓願の文字を指でなぞる。
『梵天成天翔独眼竜』
形取られた深い意思。その想いの主が、ナゼ今この場にいないのか…。らしくもなく曇る心を振り払うように、政宗は手にした黒龍で瞬く様に光を描いた。
六の爪。その名の通り、六本目の鞘に黒龍を納め、政宗は今一度、豊臣により奪われた腹心の名を響きに乗せた。
更新日:2015-09-21 15:55:52