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暗闇森の魔女のおはなし

暗闇森の大きな樫の木のうろに、1人の魔女が住んでいました。
多分、あなたが想像するよりもちょっぴり若い魔女です。

魔女は、いつも意地悪なことばかりするので、皆に嫌われていました。
でも、悪いことばかり考えているわけではありません。



子どもの頃、魔女は貴族のお姫様でした。

お姫様は、お城の中のことより、庭や畑が好きでした。
毎日、お城の外へ出ては、庭師やお百姓の仕事を飽きもせずに眺めていました。

遠い国から来た果物の樹は、たくさんの実をつけません。
1粒の麦は、6粒しか実りません。

もっとたくさん実がなる方法はないかしら、とお姫様は思いました。

お姫様は、畑のことを勉強することにしました。
幸い、お父様の殿様はお金持ちでしたから、本は幾らでも買ってもらえました。
家庭教師にも、いろんなことをたずねました。
時々、野菜作りの上手なおじいさんのところへ行って、いろいろ教えてもらいもしました。

13の年を迎える頃には、お姫様は畑のことを良くご存知でした。

お姫様は、自分が学んだことを、お百姓たちに伝えました。
けれども、みんな、おかしな顔をして、あんまり喜びません。
庭師も、お姫様のいう通りにして、去年よりたくさんの実がなったのに、嬉しそうではありません。

「お城のお姫様が、畑のことをこんなに知っている筈がない。
お姫様は、悪魔につかれてしまったに違いない」

みんな、口を揃えてそう言いました。
そして、誰もお姫様の教えたようにはしませんでした。
後で、悪魔が取り立てに来るのが恐ろしかったからです。

しばらくして、旅の薬売りがお城の近くにやって来ました。
薬売りは、野菜がたくさんとれるようになる薬を持っていました。
みんなは喜んで、その薬を買いました。
お姫様も、1つだけ買いました。

お城に戻って、お姫様はその薬を調べてみました。
それは、確かに野菜がたくさんとれるようになる薬でした。
けれども、幾年かたつと、前よりも野菜がとれなくなると、お姫様にはわかりました。
何度も使う内に、土が枯れてしまう、怖い薬だったのです。

お姫様は、それもみんなに伝えました。
けれど、やっぱり誰も聞いてくれません。

「お金を払ったのだから、本当に良いものだと信じているのかしら」
お姫様はそう思って、悲しくなりました。

2年が過ぎ、3年が過ぎ、やがて、お姫様の言った通りになりました。
けれど、みんなはあの薬売りから、同じ薬を買いました。

そして、困ったことになりました。
お姫様が悪魔に呪われているという噂は、遠くの国まで広まってしまったのです。
どの王子様も、お姫様と結婚したいとは思いませんでした。

じいやは、毎日のように神父様を呼んで、悪魔払いをしてもらうよう頼みました。
そうなると、お姫様は外にも出られず、神父様のお話は退屈でした。

とうとうある夜、お姫様はお城を抜け出しました。
大事な畑の本は、全部持って行きました。

更新日:2015-09-18 18:46:03

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