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みどりのドアのその先に

みどりのドア その先に
2015年09月14日(月) 21時00分00秒NEW !
テーマ:palareruの独り言








「あの・・・」、



もじもじと、瞳の大きな青年が私に

声を掛けた。





気が付かなかったな・・


こんな綺麗な青年が入って来てたなん

て、私としたことが。





今頃、学校を終えてマンションに着いた

頃だろうと、ぼんやりしていたからな・・



どんなことがあっても冷静沈着が売りの

私の生活を一匹の猫が変えた。



いや、正確には一人の青年が変えた。




あの日、髪を撫でながら鳴き声をあげる

私のお気に入りの猫を見つめる視線の

奥の気持ちを読み取ったあの青年が。






「あの?・・・」、


目の前の綺麗な青年にまた呼び戻されて




「あ、すいません、どうされました?」、


そう、ニコリ微笑んで見せると



「あ・あの・・・」、


恥ずかしそうに、カバンの中をそっと

見せて




「あの・・サイズが合わなくて・・」、


そこには、あの日、あの青年に渡した

あの首輪が光っていた。







「どうぞ・・」、



そっと2階の個室へと案内して




キョロキョロと辺りを見回す姿があまり

にも我が家の猫に似ていて





だから・・わかったのか・・



あの日の彼の切なそうな視線を想い

出した。




白い猫を見ている振りで、その髪を

撫でる私を見ていたあの彼は、


今、目の前にいるこの青年を愛して

いる。





「サイズが大きすぎて・・・」、


恥ずかしそうに出された首輪。



その青年の白い首筋は、とても細く



「少し詰めてみましょうね・・」、


私は、その首筋に品物を合わせた。






ふわりと香るあの青年の香り。





「幸せですか?・・」、


サイズ調整をしながらその瞳を

覗き込むと




「はい・・とっても・・」、


ちょこんっと小首をかしげにっこり

笑う姿に、こちらまで笑みが出る。





なんだか、その幸せな二人にちょっと

だけ悪戯がしたくなって




「そうだ・・内緒でいいものを・・」、


そっとその白い指に小瓶を乗せた。





「これは?・・」、


不思議そうに見つめる青年に





「彼、モテそうだから・・自白剤・・」、


ニヤリと笑ってそっと耳元で内緒の

お話をしてあげると






「使ってみようかな・・・・」、



頬を真っ赤にして、その手の中に小瓶

を握り締めた。






「あ、その時はこれも使うんだよ・・」、


小さなリングの入ったカプセルを

はいっと渡すと




「え・・こ・これ・・・」、



どうやらこれがなんなのか判るらしく





「おやおや・・要らなかったかな?」、


くすくす笑う私の前で




「あ・・・」、


しまった!っとその口元を抑えていた。









試供品を山盛り紙袋に突っ込んで


「素敵な夜を・・・」、




その綺麗な青年を送り出した私は





「今日は、店じまいだな・・」、



アルバイトに一斉メールを入れて

みどりのドアに鍵をかけた。







早く、うちの猫に逢いたい。






更新日:2015-09-14 23:39:14

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