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みどりのドアの向こう側

みどりのドアの向こう側。
2015年09月14日(月) 18時00分00秒NEW !
テーマ:空想小説





「いらっしゃいませ!」、







カラフルな制服の店員さんに

気後れしながらも、ゆっくり

その店の中へと進む。







可愛い動物ゲージの前は学校

帰りの女子高生が群がってる。




チラッと見えた可愛い子猫に

気を取られていると



「ご用件は?‥」、



低い優しい声が背中を叩いた。


くるんと振り返った僕を見つめ

たオジサンの胸には



オーナー




「あ‥あの‥」、





鞄の中に手を入れた僕に



「ここで出しちゃダメだよ」、





そのオジサンはにっこり笑って

僕の後ろを指差した。





「あのみどりのドアを進んで」、




すれ違い様に小さく囁いてその

先の女子高生の所へ向かった。







僕は、鞄の中のそれを握りしめ

たまま、ゆっくりみどりのドア

へと向きを変えた。













薄暗い階段が、ふわりと灯り

に照らされると壁に可愛い猫

のイラストが‥





よく見ると



それは、観たことのある姿‥





急に頬が熱くなり、胸が駆け足

を始め、ぐっと熱を持つそこ。




やだ、だめだよ‥





思わず鞄で隠したそこは更に

固くなる。






「どうしました?」、



急にかけられたらその声に

びくんと、身体を跳ねさせた

僕を、さっきのオジサンが

階段の下で見つめていた。







「上がって下さいね…」、





ゆっくり登って来る視線に

僕は唾を飲み込んだ。













「どうぞ‥」、



コトンっと、置かれたカップ

には、可愛いネコがクリームの

中に浮かんでいる。





それを運んで来た人も‥




ネコで…






「どなたの紹介かな?」、



隣でブラック珈琲を飲みながら


オジサン‥

オーナーが僕を、見つめた。







「身元はいいし、見た目もいい

今日からでもお願いしたいなあ」





オーナーがにっこり笑って手を

出した。




「お、お願いします!」、




僕は迷わずその手を掴んだ。

























僕は、真っ白な猫。



何故か他の猫達とは違って

個室には呼ばれない。







そのかわり





「準備をしておいで‥」、




オーナーに呼ばれて行くその

部屋の中では、僕はずっと

鳴き声を上げ続ける。







金具のついた小さな椅子に

しっかりと留められて‥







僕が甘く鳴くたびに、優しく

オーナーが髪を撫でてくれる

から




僕は、今日もまた、白い猫に

なるんだ。







「いらっしゃいませ‥」、







ほら、今日も、またお客様が

喉を鳴らして僕を見る。






「可愛い猫ちゃんでしょう?」



オーナーに、そう言われた背の

高いお兄さんは驚いている。




甘い香りのお兄さんは、ぎゅっと

その手を握りしめて、じっと僕を

見つめた。







しっかり見ていてね



綺麗に鳴くから‥




愛する人と、重ねて見てね



それが僕の仕事だから‥











意識を飛ばしかけた僕に刺さる

それを




「やって観て下さい‥」、



オーナーに言われたお客様は

高揚した視線で僕に最後の波

を送る。




高く高く飛ぶことが、僕の役目。








痙攣するその横でいつも商談を

する、オーナーとお客様。







でも、そのお兄さんは僕に

触れる事はなくて‥





その日、僕を飛ばしてくれたの

はオーナーだった。







「貴方にはこれを‥」、


オーナーは可愛らしい首輪を

選んで、にっこり笑い






「大事にしてあげて下さい‥」、

お兄さんは、僕を見ないように

して帰って行った。















カチャカチャ‥





いつもは仲間が、外してくれる

金具をオーナーが外す。





お客様を満足させられなかった

からか、無言で僕を見つめる姿

が怖くて、ぺたりと床に座り込

り込んでしまった僕の後ろで



カチャリ・・


部屋のドアに鍵がかかる。




ビクッと強張った身体がふわりと

浮き上がってゆっくりと運ばれる。




そっと下ろされたソファーの前に

片膝をついたオーナーが





「そろそろ、辞めてもらおうかな・・」、


僕の首輪に手を伸ばした。





「や・・、ごめんなさい、僕、次は

頑張りますから・・」、



その手を避けて、体を小さく丸めると




「いや、今日で終わりだよ・・」、


オーナーは、震える僕の手を掴んだ。





「やだ・・ぼく・・ここに・・」、



ボロボロと涙が溢れてくる。




「ここじゃなくて、もっと違う部屋に

行ってほしいんだよ・・」、



オーナーの言葉に泣きながら顔を上げ

ると





「私の部屋においで・・」、


ゆっくりとその腕の中に引き寄せら

れて、初めてその胸の中に抱きしめ

られた。










僕はもう、このドアを開けない。





今夜からは、貴方だけのニャンコに。









ほら、今まで聞いた事のない泣き声を

聞かせてあげる・・






更新日:2015-09-14 23:38:23

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