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始動

「いてっ!!うう~~、痛いよお~~。」

誰かにこの辛さをわかってほしくて、大袈裟にうめいてみるけれど、
返事をするのはつけっぱなしのテレビから流れるアメリカンジョークばかり。
画面の向こうで大笑いしている人たちを恨めしげに眺めながら、えいっ!ともう一度指先に力をこめる。

「ううっ!やっぱり痛い・・・。」


・・・そう。

もうすぐ帰国する日がくるのだ。

帰国するということは、大ちゃんに会うのだ。

会うということは、脱毛しなければならないのだ。


・・・なんで?

たいがいの人は、そう言うだろう。


だけど、おれにとっては一大事で。


「別にこのクソ寒いのに脚をだすわけじゃなし。しかも、ヤローだし。」

確かにもうハーフパンツを着る季節じゃない。
別に誰にみせるわけじゃない。

・・・かもしれないけど。


・・・・見せることになるであろう、予定と期待。


「どうしてだろうなあ?」


きっかけは自分よりもうんと大人なトコロに惹かれた。
こんな大人のオトコになりたい。という憧れが恋心に変わっていった。
決して、女の子になりたい。と思ったわけではないのに。


「やっぱ、タクミクン、なのかな?」


大ちゃんと絡まりあう脚が、滑らかで綺麗でありたかった。
逞しい上半身なのに、無駄な筋肉も贅肉もついていない脚。
無駄毛処理なんてしなくても、すべすべできれいな脚。

大ちゃんよりも男らしく。

オトコとしては、そう願っても不思議じゃなかったのに。
いつの間にか、より綺麗に見られたい、と願うようになった。


「大ちゃんの隣に並んでいるのは、まお以外にいないよね。
ほんと、彼女にしか見えないもん。」

そう言われるたびに、心の奥がくすぐったいような嬉しさに震えた。


「やっぱ、日本って色々恵まれてるよなあ。」


オトコのエステなんて、ここには存在しないし。
伸びきってしまった剛毛は、クリームだけじゃ全然やっつけれないし。

・・・結局、原始的にテープに頼っている、と言うわけ。


「そのままでも十分綺麗だよ。」

そう言ってくれるのは、わかってるんだけど。


やっぱり、数ヶ月ぶりに会うんだから、ちょっとでもピカピカ・キラキラで会いたいじゃないか。


ワックスに手を出すことはあっても。

こっち方面のお洒落に気を配ることになろうとは・・・。


予想でききなかっただろうなあ。


価値観とは、出会いによって180度変わるものである。


なーんて、ね。



うううっ!ヒリヒリする~~~。



更新日:2015-11-28 14:47:23

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いつまでも大まおが好き!その3