• 50 / 139 ページ

魔神の城

眠りの森には、こんな伝説がある…

―ジュス=ディアを信奉する者の中でも名高い、放浪の伝道者アルジェ=ローゼンクロイツがまだ若かった頃の話。

彼は、ある村へ立ち寄った。その村は、平和だった。しかし、その村は、貧しかった。魔神が、彼らの日々の糧を略奪していたからである。

人々は、その生活に疑問を抱きはしなかった。生れてより、そのような暮ししか知らなかったからである。

聖アルジェは、人々に真の平穏を…人間らしい生き方を取り戻そうと誓った。そして、魔神に立ち向かった。

森の中に住まう魔神は、人々の話通り、恐ろしい姿をしていた。即ち、黒髪を振り乱し、片手に斧、片手に短剣を持つ、獣身の女神。だが、聖アルジェは恐れずに戦った。ジュス=ディアの加護を受けた剣と盾を以て、全ての暴虐に耐えた。

四十日が過ぎ、聖アルジェは疲れ果てた。魔神は強く、飢えていた。聖アルジェは死を覚悟し、最後にジュス=ディアに祈った。

「主よ、私に過ちがあると言うなら、御裁きください。ですが、かの者が過ちであるならば、どうかもう1度、私を憐れんでください」

すると、ジュス=ディアに仕える聖乙女フィアナが現れ、魔神の額に触れた。魔神は深き眠りに落ち、聖アルジェは救われた。


しかし、魔神が深き眠りに落ちた為、村は他の魔神に襲われるようになった。

人々は恐れ、魔神の像を打ち立てたが、聖アルジェはそれを許した。かの魔神が、村を守っていたことを知ったからである。それは、正しきことであった。その故に、ジュス=ディアはかの魔神を赦し、聖アルジェは魔神を倒すことが出来なかったのである。

魔神像が完成すると、その像は聖アルジェと人々に言った。

「我は、皆がジュス=ディアに帰依することを許す。聖アルジェよ、そなたが皆を正しき道へ導く限り、我が目覚めることはない。しかし、皆が過てる道へ踏み入るるなら、我は諸共に汝らを滅ぼさん」

聖アルジェは言った。

「そのような時は来ません。恐ろしき神よ、あなたの役目は終わった。永久に休まれよ」


それから村が魔神に襲われることはなく、かの魔神像は「許されし者」として今も皆に崇められている。その名を与えたのは、聖アルジェである。

そして、魔神の眠る森は【眠りの森】と呼ばれる。

更新日:2015-09-10 22:20:58

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook