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 そんな興奮した状態のレイクにユースが付き添い、二部屋の外の廊下にはコメットや隊員たちが待機していた。
 廊下からは、ドアの小窓を通して部屋の中が見えた。部屋に付いたカメラで撮られた映像は、第四研究室のモニターに送られていた。


 そんな中、突然ツィーニャが恐怖を感じたように叫び出したのだった。
 彼女は自分がナチスドイツに捕まったユダヤ人だと妄想していて、この時はガス室に送られたと思ったようだ。部屋の中に殺人ガスが流されて、自分がこのまま死んでいくしかない──という恐怖だ。
 廊下で待機していた医者が、すぐ彼女の治療に向かった。その際にドアを開け閉めしたため、少女の叫び声が廊下にまで漏れた。
 ちょうど検査室のドアも開いていたので、音がレイクの耳にも入った。少年はツィーニャの悲鳴を聞いて、自分もパニックになったように暴れ出した。

 現場に収拾がつかなくなる前に、この実験を終わらせるべきだ…と、誰もが思った。
 もちろんコメットはそのつもりだったのだが、ユースは実験の継続を要求した。主任は少年が何を考えているか見るために、そのままもう少し経過を観察した。






 廊下からドアを挟んだ検査室の中では、ユースがレイクを再びベルトで縛り上げていた。
 レイクはベッドの背にぐったりもたれ、瞳を閉じて息を荒く出し入れしていた。

 ユースは相手を押さえながら、その耳たぶや首すじに、噛みあとのような赤い傷が残っているのを発見した。
 首の方は何度も噛みつかれたらしく、歯のように半円形に深く切れ込んでいた。そこは細かく透明な糸で縫われて、すでに治療がしてあった。
 唇自体に傷はなかった。だがたった今ユースが吸ったばかりだったので、血が赤く浮き出していた。頬の所々にある青あざと共に、それは肌に色のコントラストを付けていた。

 レイクは頭にも包帯が巻かれて、上からゴム製のネットがしっかりとかけられていた。
 頬からあごにかけての輪郭が、東洋人らしい鋭角な直線で落ち込んでいて、呼吸するたびにその華奢な外観が目立った。ユースはそれを見ながら顔を寄せていって、自分たちの額と額をくっつけた。

更新日:2015-09-06 20:16:51

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