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~ 2 ~

 「はい、隼人にぃ・・・水」

 水を手渡すフゥ太の顔が、蒼ざめ強張っている。

 「さんきゅ・・・」

 受け取って、隼人は笑顔を作って見せた。

 「大丈夫・・・気にすんな。お前のせいじゃねぇんだから ─── 」

 「う・・・ん」

 小さくうなずくが、責任の一旦を感じているらしいその頭を軽く叩く。隼人の手が触れた瞬間、フゥ太はびくりと身をすくめた。

 「あ・・・ごめん」

 「ううん・・・」

 間違いとはいえ・・・隼人にキスされて、フゥ太自身ショックから立ち直っていない。シャマルと隼人の会話で、隼人と恭弥が同性でありながら恋人である事は理解していたが・・・実際、修羅場を目撃し、自分も同性である隼人とキスをしたのだと思うと・・・しかも、隼人のキスは、恭弥相手のそれで・・・フゥ太の想像するキスとは、少し違っていたようだ。

 頭ではわかっているが、気持ちの整理がつかない、といったところか・・・

 「・・・あとで、ちゃんと恭弥と話しすっから。お前との事がなくたって、出てけって云われてたんだし・・・出てくタイミングが早まっただけだ」

 「隼人にぃ ─── 」

 フゥ太の顔が泣きそうに歪む。

 「僕に、何かできること・・・ない?」

 隼人は困ったように笑い、肩をすくめた。

 「んな顔すんなよ。大丈夫だって・・・シャマルのとこにでも転がり込むからさ」

 「だめだよ!隼人にぃ・・・だって、雲雀さんは隼人にぃにとって・・・」

 フゥ太の言葉を遮るように、チャイムが鳴った。

 「 ─── 開いてるぜ」

 ドアフォンで確認した相手に、隼人は勝手に上がるよう告げた。リビングの扉が開き、まず、リーゼントの先がのぞき、草壁の顔がつづいた。

 「・・・恭弥に云われて、俺を追い出しにきたのかよ?」

 ソファにどかっと座りながら、隼人は拗ねた視線を窓に噛み付かせる。

 「 ─── せめて、テメェで来いよ」 

 口の中で小さく、恭弥に恨み言を呟く。

 「いえ、恭さんの荷物を取りに・・・」

 あくまでも低姿勢に、草壁は答える。

 「明日からイタリアなので」

 予定の変更はないらしい。

 「勝手にクローゼット開けさせてもらいますが・・・?」

 「恭弥が良いって云ったんだろ?俺には止める権利はねぇよ」

 「では・・・」

 リーゼントの頭を下げ、恭弥の寝室のドアを草壁は開ける。これみよがしに開け放たれたドアから、クローゼットを開く音が聞こえた。バスルームから恭弥の下着類を草壁が持って来た時だけ、隼人は露骨に嫌な顔をしてみせた。

 こういった作業には慣れているらしく、草壁の動きは無駄がない。瞬く間に出来上がった恭弥の渡航荷物はリビングを通過し、玄関に置かれた。

 「・・・獄寺さん」

 荷物と一緒に、そのまま出て行くのかと思っていた草壁が、再びリビングに戻って来た。視線をそらしたままの隼人に、やんわりと声をかける。

 「恭さんに、何か伝言ありますか?」

 「・・・言い訳か?それとも ─── 別れの挨拶か?」

 なげやりな返事に、草壁は嘆息する。

 「聴きたきゃ、テメェで来いって云っとけ」

 「わかりました」

 立ち去りかけた背中を、フゥ太が引き止める。

 「待ってください・・・雲雀さんの誤解なんです、隼人にぃは・・・!」

 「わかってますよ。恭さんだって・・・ちゃんと」

 振り向いた草壁が、苦笑する。

 「だったら ─── 」

 やれやれ・・・と頭を掻いた草壁は、床に正座すると隼人に頭を下げた。

 「恭さんに・・・頭下げてもらえませんか」

 「・・・頭下げたって、あいつの気持ちはかわんねぇよ」

 「あなたに、その気があるかどうか・・・です」

 ずしり、と云われて隼人はしぶしぶうなずく。

 「頭下げりゃ・・・あいつの気が変わるってんなら ─── さげねぇこともねぇけど」

 「隼人にぃ!このチャンス逃したらホントに雲雀さんと別れることになるよ?」

 「・・・逢ってくれるのかよ?」

 「なんとか、段取りはつけますよ・・・一緒に、行ってもらえますかね?」

 立ち上がり、草壁はちょっと崩れたリーゼントを気にした。

 「どこへ・・・?」

 「ご案内しますよ ─── 我々のアジトへ、ね」

更新日:2015-08-30 20:32:00

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