- 2 / 13 ページ
「それは・・・恭さんが悪いですよ」
草壁が苦笑混じりに云うのに、冷たい一瞥をくれ、恭弥は嘆息する。
「獄寺さんが怒るのも、無理はないです」
草壁の淹れた茶をすすりながら、恭弥は唇の端をちょっとだけあげてみせた。
「だからって・・・帰って来ないなんて ─── ガキっぽくない?」
隼人が見たら、くらくらしそうな壮絶な流し目で草壁を睨むが、生憎、草壁にはその手は通用しない。
「わざと鞘当する恭さんのほうが・・・ガキっぽいですよ」
控えめな口調だが、ぴしゃりと云った草壁に、恭弥は舌打ちした。中学生の頃から付き従ってきたこの男は、恭弥の扱いは手慣れたものだ。
「 ─── そんなに、心配なら、探し出しましょうか?」
「いや、いいよ。いなきゃいないで、清々する」
ふぁぁ、とあくび混じりに恭弥は呟き、組んでいた足を解く。
「もう、お帰りですか?」
草壁の問いに、微かな首の動きで肯定し立ち上がった。
「出発は予定どおりだからね」
「チケットの手配は済んでます ─── 宿は・・・」
どうしますか?と目で問いかけた草壁に、恭弥は薄く笑った。
「いいよ、予定どおりで」
へい・・・と短く返事した草壁を残し、恭弥はその建物を後にした。扉の外は鬱蒼とした森の茂った・・・並盛神社。秘密地下組織としての活動は、規模こそ小さいが、すでにスタートしていた。今回のイタリア行きは、世界進出への第一歩といえる。
モニターで、その細身の長身が立ち去る姿を確認しながら、草壁はやれやれとリーゼントの頭を掻いた。
同性愛という性癖には、異議を唱えるつもりはないが・・・仕事とプライベートにきっぱりと一線を引き、寝食を共にするパートナーの獄寺に対しても、真実を伝えない恭弥の姿勢には、少なからず厳しすぎるのではないかと思ってしまう。
だからと云って、恭弥に逆らう訳にもいかず、草壁はイタリアのロマーリオに連絡を取るべく通信回線に向かった。その前に、小さく、嘆息したのだけれど・・・
さて、並盛神社を後にした恭弥は、と云えば・・・ポケットから取り出した携帯に、ちらりと視線を落として、着信がないのを確認すると、ほんの少し唇をゆがめた。
「ふ・・・ん、帰らないつもりなら、いいよ・・・隼人」
一緒に暮らし始めて、半年 ─── つい先日も、ディーノがらみで隼人と小さなトラブルが起きた。今回も、こうなることは判っていた。
隼人を好きだという気持ちがある反面、自分の行動を制限されるのは嫌だった。『出て行け』と追い出すことは簡単なことなのだが・・・
通りでタクシーを拾い、自宅へ戻った。シートにもたれ、流れる景色に目をやる。握りしめたままの携帯には、着信どころかメールもナシ・・・
タクシーを降り、マンションのエントランスを抜ける。郵便受けも覗いた形跡はなし。
鍵のかかったままの扉を開き、少し考えて、鍵を閉めた。そのまま向かったキッチンに立ち、水を飲む。ふいに、昨日の夕方、背後から抱きしめてきた隼人の温もりが蘇り、恭弥は切ない笑みを刻んだ。
「僕を食べたいって・・・云ったろ?隼人・・・」
ぽつり、と呟いた声に、応える声はない。
食欲は無かった。冷蔵庫の扉を開き、ビールに手をかける。少し考えて、ワインのボトルを手に取った。そのまま、ワインオープナーでコルクを抜き、グラスも持たずにリビングのソファーに腰を下ろす。
シャツのボタンを開け、ソファーにけだるく身を投げながら、ボトルからじかにワインを飲む。一人きりという開放感と、今まで感じたことのない孤独感・・・
草壁が苦笑混じりに云うのに、冷たい一瞥をくれ、恭弥は嘆息する。
「獄寺さんが怒るのも、無理はないです」
草壁の淹れた茶をすすりながら、恭弥は唇の端をちょっとだけあげてみせた。
「だからって・・・帰って来ないなんて ─── ガキっぽくない?」
隼人が見たら、くらくらしそうな壮絶な流し目で草壁を睨むが、生憎、草壁にはその手は通用しない。
「わざと鞘当する恭さんのほうが・・・ガキっぽいですよ」
控えめな口調だが、ぴしゃりと云った草壁に、恭弥は舌打ちした。中学生の頃から付き従ってきたこの男は、恭弥の扱いは手慣れたものだ。
「 ─── そんなに、心配なら、探し出しましょうか?」
「いや、いいよ。いなきゃいないで、清々する」
ふぁぁ、とあくび混じりに恭弥は呟き、組んでいた足を解く。
「もう、お帰りですか?」
草壁の問いに、微かな首の動きで肯定し立ち上がった。
「出発は予定どおりだからね」
「チケットの手配は済んでます ─── 宿は・・・」
どうしますか?と目で問いかけた草壁に、恭弥は薄く笑った。
「いいよ、予定どおりで」
へい・・・と短く返事した草壁を残し、恭弥はその建物を後にした。扉の外は鬱蒼とした森の茂った・・・並盛神社。秘密地下組織としての活動は、規模こそ小さいが、すでにスタートしていた。今回のイタリア行きは、世界進出への第一歩といえる。
モニターで、その細身の長身が立ち去る姿を確認しながら、草壁はやれやれとリーゼントの頭を掻いた。
同性愛という性癖には、異議を唱えるつもりはないが・・・仕事とプライベートにきっぱりと一線を引き、寝食を共にするパートナーの獄寺に対しても、真実を伝えない恭弥の姿勢には、少なからず厳しすぎるのではないかと思ってしまう。
だからと云って、恭弥に逆らう訳にもいかず、草壁はイタリアのロマーリオに連絡を取るべく通信回線に向かった。その前に、小さく、嘆息したのだけれど・・・
さて、並盛神社を後にした恭弥は、と云えば・・・ポケットから取り出した携帯に、ちらりと視線を落として、着信がないのを確認すると、ほんの少し唇をゆがめた。
「ふ・・・ん、帰らないつもりなら、いいよ・・・隼人」
一緒に暮らし始めて、半年 ─── つい先日も、ディーノがらみで隼人と小さなトラブルが起きた。今回も、こうなることは判っていた。
隼人を好きだという気持ちがある反面、自分の行動を制限されるのは嫌だった。『出て行け』と追い出すことは簡単なことなのだが・・・
通りでタクシーを拾い、自宅へ戻った。シートにもたれ、流れる景色に目をやる。握りしめたままの携帯には、着信どころかメールもナシ・・・
タクシーを降り、マンションのエントランスを抜ける。郵便受けも覗いた形跡はなし。
鍵のかかったままの扉を開き、少し考えて、鍵を閉めた。そのまま向かったキッチンに立ち、水を飲む。ふいに、昨日の夕方、背後から抱きしめてきた隼人の温もりが蘇り、恭弥は切ない笑みを刻んだ。
「僕を食べたいって・・・云ったろ?隼人・・・」
ぽつり、と呟いた声に、応える声はない。
食欲は無かった。冷蔵庫の扉を開き、ビールに手をかける。少し考えて、ワインのボトルを手に取った。そのまま、ワインオープナーでコルクを抜き、グラスも持たずにリビングのソファーに腰を下ろす。
シャツのボタンを開け、ソファーにけだるく身を投げながら、ボトルからじかにワインを飲む。一人きりという開放感と、今まで感じたことのない孤独感・・・
更新日:2015-08-30 20:30:33