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 車の振動とは違う振動に、恭弥は胸ポケットを探る。

 マナーモードの携帯が、隼人からの着信を告げていた。ディーノの手を肩から引き剥がし、電話に出る。

 『・・・なんで、起こしてくんねぇんだよ?』

 開口一番の不機嫌な声に、恭弥は苦笑する。

 「よく寝てたから、さ」

 『一週間も留守にすんだぜ・・・せめて、キスぐらいさせろよ』

 「僕はしたよ?」

 『だったら、起こせって・・』

 「起きなかったキミが悪い」

 『・・・ったく。気を付けて行ってこいよ。あー、これ、ちゃんとお前に云いたかったのに・・・』

 悔しそうな声音。隼人の表情が見える気がして、恭弥は思わず微笑む。

 「心配ないから、ちゃんと待ってて」

 『おう。留守はまかせろ』

 「じゃあ・・・切るよ?」

 『あ、うん・・・』

 名残り惜しそうな声に、恭弥もつい切りそびれる。

 『あの、さ』

 「うん?」

 『・・・愛してる』

 照れくさそうな声が、云った。

 「 ─── それは、わかってるから」

 『じゃあ、な』

 慌てて、通話が切られた。きっと今頃、向こうではものすごく恥ずかしげな顔をしているだろう・・・

 「・・・まったく、んな色っぽい顔しやがって」

 ディーノの指先が、恭弥の顎を捉える。

 「隼人と上手くいってるらしいな」

 フン・・・と鼻先で笑ってみせ、恭弥は艶然と微笑んで見せる。もちろん、顎はディーノの指先に預けたままだ。

 「おかげさまで、ね」

 薄く笑った唇を、ディーノの指先が辿る。

 「 ─── 楽しいか?キョウヤ」

 「正直、面倒に思うこともあるよ・・・」

 ディーノの指を顎からはがし、指先を絡める。

 「あなたに比べれば、隼人は何も知らないし・・・ガキだし、ね」

 でも、と握り締めた携帯に視線を落とし、恭弥は微笑む。

 「今はちょっと・・・幸せ、かな」

 云ってくれるぜ、とディーノは唇を尖らせる。

 「そんな顔されちゃ、お前に手出しできねぇな」

 それでも、絡められた恭弥の指先に、ディーノは軽く唇を当ててみせる。

 「・・・あぁ、そうだ・・・云い忘れてたけど、隼人はボンゴレで二番目にヤキモチ焼きらしいから、気をつけたほうが良いよ?こんなことバレたら、新しい匣の実験台にされかねないからね」

 仕方なく、恭弥の指先を開放し、ディーノは憮然として呟く。

 「ボンゴレで二番目って・・・一番は誰だ?まさか、恭弥、お前か?」

 「僕は、三番目らしいよ」

 二番と三番のヤキモチ焼きカップルなんて、ぞっとしないが・・・ディーノには、こまごまと喧嘩を繰り返す理由がなんとなくわかった気がした。

 「んで?ちなみに・・・一番は?」

 「 ─── 六道骸」

 いやいやながら、その名を口にし、それから恭弥は意味深な笑みで唇の端をあげた。

 「彼も、いろいろ大変だね・・・」

 小さな呟きは、ディーノの耳にはとどかない。

 『彼』とは、もちろん骸ではない。骸の心配など、決してするわけがない。その骸の愛情を今、一身に受け止めている小柄な姿を恭弥は思い浮かべる。

 彼もまた、今の恭弥と同じく幸せなのだろうか・・・多分、自分同様、この関係は長くは続けられまい。気持ちがあるなしに関わらず、だ。

 だが、今は、その幸せが少しでも長く続くように、恭弥はただ、祈っていた。
 
                       ★ END ★

更新日:2015-08-30 20:34:04

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